2011.4.5

店主インタビュー ギャラリーこちゅうきょ

伊藤潔史氏

Q ギャラリーこちゅうきょではどういったものをどういった姿勢で扱っているのですか?

A うちは現代の工芸品を扱っていますが、先生方との相性を確かめて、二人三脚でやっていけるな、と思ったら信頼関係を深めていって、それで作品を提供してもらう。更に進むと、息子、孫、その次の世代に受け継がれるクオリティーのものを作ってもらうやり方でやっています。それは後々に振り返った時に、これはギャラリーこちゅうきょの伊藤がプロデュースしたものだな、流石だなって言ってもらえたらディーラーとしては最高ですよね。ただそこまで行くにはとても大変で、「機が熟す」と言いますけど、作家に出会って信頼関係がお互いに出来て、そこまで言うならやってみようか、と作家に思ってもらって、こちらもあなたならもっといいものが出来ます、というようなやり取りがあると、必ずいいものになっていくと思うんです。そのプロデューサーの目筋が悪くなければ。そのトレーニングをしているわけですよ。僕は本当に毎日不安で自分が日々やっていることが50年後100年後残っているのかな、って。そこが面白いんですけどね。
この世界では、お客様に教えていただくというのがとても大きい世界なんですよ。お客様の方が良く知っていたり、目利きだったりする場合が多いんです。それをスポンジのように吸収して。逆にお客様に不足しているところをこっちでカバーしてあげて、というのを僕は20年意識しています。それが続くとお客様との付き合いが長くなりますね。

Q 伊藤さんがこの世界に入られたきっかけは何だったのですか?

A 僕は家業を継がなくてはならなかったんですが、そこを飛び出して東京に出て家業とは全く違う学問で美術史を専攻したんです。それで学芸員の方に進めればいいかな、と学生時代は思っていました。その頃は景気も良くて、学芸員の需要もあったので、気楽に考えていたんです。ですが、担当の先生に相談に行ったら「君は学問じゃなくて、現場の方に目を向けて見なさい」と言われて始めてこっちの方に目が向いたんです。それでその先生が事情通だったので、壺中居に連絡して、「今から伊藤というのがいきますから」って言われてすぐ行くことになって(笑)。最初はここに就職は考えていなかったんですが、アルバイトから始まって、ずるずるっと(笑)。

Q その先生は人を見極めることの出来る方だったんですね。

A ただ21年になりますが、今でも自信は無いですよ。マニュアルが無いんですよ。ですからこの世界は3日持つか持たないかはっきり分かれると思います。私は一番最初に仕入れをしたのは5年経ってからでしたね。色んな経験をするために旅に出されて、自分で作家を探して、商品を探して、お客さんを開拓して、自分なりに工夫して行かなければならないのでこの業界はユニークな方達が多いですね。だから仕事が好きな方が多いです。

Q どうやって作家さんを発掘されるのですか?

A やっぱり実際にものを見てですね。ショップなり展覧会なりを見て、あれっと思うようなものがあれば、名前を覚えておいて。でも一回じゃだめなんです。それでまた同じ人の作品であれって思ったら、筋が見えてくる。そこから辿っていくと作家にたどり着きますでしょ。でも実はそこから先なんですよ。既に色々なところで展示してて、僕が手を入れるまでもないという人もいれば、出会って良かったと言ってくれる人もいるんです。
あと扱いとしては、物故作家もあって、直接交流はなくても良いと思う作家さんを探すというのは自分のトレーニングでして。自分の好き嫌いだけではだめで、時代の好みと、これは今まで扱っていないけれども今買っておくべきだというのも大切ですね。
ワインに例えると、知られざるブランドで、これは熟成させるべきだと思うものってあるんですよね。そういうものと出会った喜びと実際に継続して熟成させて本当にいいワインになった時の喜びがあるんです。逆にボジョレヌーボーのように熟成ができないワインがあって、それを飲むのは嫌いじゃないですが、開けてすぐに飲まないとだめな旬のものはあまり扱わないんです。

Q その見極める感覚はどうやって養っていくものなのでしょうか?

A それは余り考えない方がいいことかもしれませんね。計算だけだとだめな世界なんですね。現実を受け入れてその中で取捨選択して割り切ってやった方が物事が前に動きますね。僕の場合は、何もやることが無いときは本を読んだり音楽を聴いたりしています。後は古典的なものを見たり読んだり聴いたりしますね。自分の専門分野以外のものに対してアンテナを貼っているんです。直接美術史の勉強することは否定しませんが、それ以外に勉強することがいっぱいあります。そうやって自分を磨くというか。作家の先生にしてもお客様にしても、教養だけじゃないと思うんですよね。魅力的な人というのは、ものすごく勉強しています。それはびっくりするぐらい。そして楽しんでいます。そういう方はとても尊敬できます。

Q 今一番押している作家さんはいますか?

A 今度東京アートアンティーク中にやる石田誠という作家です。彼は年々良くなっていますね。名前も少しずつ出るようになって。でも人が見ていないところで涙を流し、僕の数十倍の経験を積んで来ている人間です。様々な人と出会って、色々なジャンルの人と交流を深めて。大変な仕事馬鹿なのですが、昨日よりも今日、今日よりも明日という風にやっていることが作風でわかるんですね。逆に流行作家でスターダムに登り詰めてしまうと自分磨きをやめてしまうことがある。そういう人柄というのは作品に現れるんですね。それはものを使ってみるとよくわかるんです。いいものは手放せなくなります。逆に流行作家のものを買って使ってみたけど、だんだん見るのも嫌になってしまうということがあります。嫌みというかそういうものが放射するんですね。
一番肌に触れて、視覚、聴覚、という風に体に一番近いものが工芸品なんですよね。純粋に美術工芸という意味でも、生命というか、時代を超えて残る美しさを放射しているものというのはすごい作家さんだと思うんです。
今は変動期でどういったものを作っていこうかと作家も僕も考えているところです。

Q 仕入れというのはどういった形で行うのでしょうか?

A うちのラインナップの仕方というのは、作家さんに作っていただいたり、オークションなど、あとはお客さんと交渉していただくという3つです。それぞれに魅力のあるものが手に入るのですが、でもこれは扱っていない作家だけれども、置いておきたいというもの、つまり売らないで取っておきたいぐらいに思えるものというのは放っておいても売れてしますね。逆にお客様と交渉して一万円かなーと思ったものが2千円でいいよ、と言われたら嬉しいじゃないですか。でもそういうのは売れないんです。僕が誰かと競り合うとしますよね。1万円で落とそうと思っていたものが5万円までいっちゃって高くついちゃったな、どうしよう、と思うものの方が売れるんです。魅力あるものは値段も上がっていくんですね。これはオークションの場合ですが、お客様と交渉して頂く場合というのは、お客様がなかなか手放してくれないものの中にいいものがあるんですよ。

Q ワインのお話などありましたが、お酒はかなりお好きなのですか?

A ここの業界はお酒好きが多い。それには2パターンあって、酔えればいい人と非常に好奇心が旺盛でこだわりが強い人と。僕はどちらかというと好奇心が強い方で、出張で地方に行くと、まずはそこの地のものを食べたいなと思います。地のお酒も飲みたいです。僕は趣味というようなものは無いんですが、歩くことが好きで、外国に行くと街歩きをして街の匂いを嗅いで、そこの旬のものを食べて、自慢のお酒を飲んで、ライフスタイルを郷に入れば郷に従えでやっているのですが、これは日本に帰ってきて非常にプラスになっていますね。日本にいても、こういう飲み方があるんだ、こういう組み合わせがあるんだ、と勉強できますね。そしてその土地のことや歴史を勉強するようになるんです。食べ物一つとっても美術と無縁じゃないと思うんです。どういう器に盛っているのかということにも目がいっちゃうわけですよ。お酒というのは、そういう意味では勉強の一テキストなんです。今特にこだわっているのは食前酒の研究なんです。

Q では最後に東京アートアンティークに来られる方に一言メッセージを尾根がします。

A ここは非常にフレンドリーな街だと思うんです。歴史も江戸時代から続く仲通り中心に広がって、日本では一番店の種類が多くて、現代美術から古美術まで、あるいは絵から焼物、お茶道具まで。非常に便利なところです。そういうところでお店を持つとために皆さん非常に努力している。個々のお店で工夫している中で、うちも微力ですが、その4日間はこういうことしていますよ、ということで、どなたも歓迎しています。その中で自分の好き嫌いをチョイスできるいい4日間だと思います。どんどん良くなっていますから、そういう匂いを嗅ぐだけでも面白いと思います。まずは気張らないで、リラックスして、好き嫌いでいいと思うんです。ですから楽しんでください。
後、お客様から吸収できることも多いので、こちらとしても大歓迎なんですよ。新しい知識とか見方とか価値に出会う機会ですし、去年もそういう出会いがありましたので、楽しみにしています。

どうもお忙しい中ありがとうございました。

(2011年4月)

ギャラリーこちゅうきょ

東京都央区日本橋3-6-9 箔屋町ビル2階

http://www.kochukyo.co.jp/

トップへ
単語で探す
エリアで探す
ジャンルで探す
内容で探す