2012.4.5

店主インタビュー 浦上蒼穹堂 vol.2

浦上満氏

北斎 漫画と春画 展

Q)今度のアートアンティークでは春画を展示されると聞きましたが。

A)今度の展覧会は「北斎 漫画と春画」。実は、23年前に新潮社から同名の本が出ていて、私も著者の一人なんです。(鈴木重三先生、林美一さん、永田生慈さんと私で4人の共著)今回の展覧会名はそのパクリとでも言いましょうか。

Q)この頃から春画は集めてらっしゃらなかったんですか?

A)この頃は嫌いでした(笑)。私はもっぱら北斎漫画をコレクションしていました。23年前は春画というのは、展覧会などでは出せなかったんですよ。春画というのは今も偏見がありますよね。でも質のいいものは美術品としても充分鑑賞に堪えるものなんです。

Q)今まで本などで春画を見る機会があったので、展覧会で見れないということに気がつきませんでした。

A)そうなんですよ。本では見れるけれども、本モノは展示するのが微妙なんです。大げさに言うと日本独自の美術、文化を公開できないというおかしなことになっている。先月催されたアートフェア東京でも春画はやっぱり飾りにくいですね。そこで今回自分の店で展示しようかと思いまして

ここなら誰にも文句言われないですからね(笑)

どんな美術のジャンルでもトップからボトムまであるように、春画も良いものを選択すればそれでいいわけです。ただ、春画の場合は長年タブー視されて来た。それを少し変えたいという気持ちはあります。

Q)基本的に北斎だけを展示されるのですか?

A)そのつもりでいますが、春画はそんなに数多くは展示しません。北斎漫画を中心とした版本を額装したものが主になります。

Q)北斎の春画というのはどういう所が魅力なのでしょうか?

A)北斎は風景画だけではなくて、役者絵も美人画もいわゆる花鳥画といった静物画も何でも出来る人です。ただそこにとどまらずに常に次のステップ、次のステップへと進んで行く人で、そういった意味では非常にピカソに似ています。ピカソも自らを「西洋画狂人」といって、北斎になぞらえていたところがあるんです。絶えず一所に安住しないで次に行くんですね。

春画というのは、広重のような真面目人間でも描いた。当時は春画を描けなければ一流の絵師として認められなかった。春画を描かなかった絵師は写楽くらいじゃないかな?そして春画を見ることによってその人の腕がすぐわかる。

北斎の春画は線もいいし、構図もいい。全体としてドキッとするくらい良いんです。

Q)それはどういう所で?

A)それは、皆がよく知っていることを描いても不自然でなく、「おおっ」と言わせるものを描ける凄さとでも言いましょうか。そういった意味で春画というのは画家の腕が一番わかるジャンルです。明治以降でも、上村松園や伊東深水はじめいろいろな画家がチャレンジしています。

北斎に限らず江戸時代の春画は、世界的に見ても最高峰に位置します。外国では大へん評価が高いのです。

日本では明治後半から西洋の倫理観や宗教が入ってきて、また軍国主義の統制などで社会的に春画をタブー視するようになりました。学者が研究することも難しくなった。

2005年東京国立博物館で大規模な「北斎展」があって、私の北斎漫画も展示されましたが、展示品の中に春画は入っていませんでした。一方2000年にイタリア・ミラノで催された「北斎展」では春画もちゃんと入っているわけです。北斎の全体像を観るには春画も避けて通れないと思います。
ただ、もちろん見せ方というのはありますよね。当然、見たくない人や子供に無理に見せるというわけにはいかないですし、そこは工夫しないといけません。

私は北斎漫画を40年以上蒐め続けていますが、飽きることがありません。春画は蒐め出してまだ十数年ですが、やはり良いものは良い。私は美術商ですから、その良さをいろいろな人に伝えたいと思っています。

美術商の仕事というのはそういうものではないでしょうか?

浦上蒼穹堂
浦上満氏にお話いただきました。

(2012年4月)

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