2018年 3月 8日 発行

日本画の装い

写真:安田靭彦「初春」
写真:安田靭彦「初春」

三谷 晴弘

 現在「日本画」と呼ばれている絵画の定義は、絹や和紙に岩絵具を使って描かれた絵画をいうのが一般的です。この絵画技法は中国で生まれ、敦煌の壁画などにも使われていて鮮やかな色彩を今に伝えています。その後技法は日本にも伝わり大和絵など通して発展しましたが、中国では時代が下るにしたがって水墨画が主流になりました。

 戦前までの主な日本画の形態には軸装(掛軸)・巻物・屏風などがあります。中でも軸装は日本画の主流でした。軸は巻いて保管するため絵具を厚く塗るには適しません。絵具が割れてしまうからです。戦後、油彩画の影響なども含め新しい日本画を作り上げていった作家たちによって厚塗りの表現が生まれました。同時に家の造りが西洋化し、和室の床(床の間)に掛ける軸装から壁に掛ける額装の需要がでてきました。新しい表現と住宅の洋風化が重なり額装が日本画の主流になったのです。

 額装の日本画では額の裏に作家直筆のシールが貼られていることが多いです。作家が画題と名前を書き入れ、この作品は確かに自分が描いたものだという証明になります。これは日本画が掛軸で描かれてきたことと関係があります。古くから掛軸は桐箱に入れて保管されてきました。桐箱は湿度を一定に保つ機能があり、絵画だけでなく茶碗など美術工芸品も含め大切なものはすべて桐箱に納められてきました。その際中に入っている作品を明示する目的で箱書きが書かれました。作家や所蔵者が題名、作家名を桐箱の蓋に墨書きしたのです。現代日本画のシールはこの箱書きの名残です。額装しほとんど桐箱に納めなくなったので、代わりにシールに書いて額裏に張り付けるようになったのです。(額装で桐箱入りもあります)西洋では絵画に合わせた収納箱を用意する習慣がありません。絵画は建築装飾の一部として壁画から額装絵画になっても掛けっぱなしでした。数多くの美術品を持っていた王侯貴族は絵画・彫刻を問わず全て飾っていました。(日本は季節ごとに床の絵を掛け替えた)

 日本美術では作家による箱書・シールの価値が大きく、有ると無しでは経済的価値が倍近く違ってきます。皆さんも箱がかさばるからといって処分せず、作品同様大切に保管してほしいと思います。