2018.3.8

What's inside the box...?

上畝 文吾

 

 「今日は此れをお見せしようかとおもってね、あなたに来てもらったんですよ」と長年に亘って磨き込まれた小振りな反物机の上に桐箱が置かれた。

 その箱を見た瞬間胸が高まり、ムムッと喉の奥で息を呑む。

 稀に「ほぉ~」と感嘆のため息がもれる“ 美しい箱” というのがある。そういう所謂“ 格のある箱” に収まっているものは、中身も「ほぉ~」である。

 更紗の風呂敷に包まれ、時代の内箱、中箱、外箱、総箱と三重!四重!の箱に収まり箱書、次第、伝来云々と『喜左衛門井戸』に代表されるようなお茶道具のはなしではなく鑑賞古陶磁の世界でのはなしである。

 お茶道具のなかの【やきもの】から独立した鑑賞古陶磁の歴史は、古くは大正初期頃より収集を開始し東京国立博物館の横河コレクションで有名な横河民輔や、大河内正敏をはじめとした彩壺会の面々などから続き世界屈指の中国・朝鮮陶磁コレクションを築いた安宅英一などなど現在まで百数十年あまりと云われ、(もちろんその数々の名品の取引には日本橋・京橋の美術街が深く関わっているのである。その流れの中で海外からの招来品や里帰り品であったり元々の組み物が一客ずつに分かれたり、はだかで出てきたものに、古くからの伝世箱以外に多くの箱が新たに作られるのである。伝世箱があればそれに越したことはないが・・・、分りやすい例を挙げると古い箱が皆無に近い出土品、鍋島、李朝の白磁他等々の箱)けして長いわけではない。しかし昨今の中国美術ブームでは近現代の日本のコレクター、美術商の審美眼における国際的評価の高さからか、日本所蔵という来歴の証となる日本の箱が付いていれば付加価値を増すなどという話しも聞こえてくるのである。

 目の前に置かれた箱は昭和? いや平成の作かもしれないが、滑らかな木肌に美しく山を盛った天板の柾目、ほぞ組みや隅の取り方、艶々と丁寧に組まれた正絹の真田紐、箱全体から千代の富士の背中のような静謐な空気が放たれる。

 

((↑ここまで数秒たらず))

 期待に思わず膝がズイっと出る。

 それを横目にとらえた蒐集家は「まぁまぁ慌てないで、ちょっとお茶を淹れるから少しお待ちなさいな」と瓶掛けからゆったりとした所作で湯を取りあげるのである。

 じりっ・・・じりっ・・・。

 こころを見透かされているのであった・・・・。

 

 っというわけで、中身本位と云われる鑑賞美術では脇役の“ 箱” ですが、よく見てみると保護箱という観点以外に、それに秘められた人々の想いや継承されてきた時代の空気が感じられるかもしれません。

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