SUMMER
ROD GALLERY
この度RODGALLERYでは角谷沙奈美の個展を行います。
弊廊での個展は今年で3度目となります。
日常の景色を丁寧に掬い上げ軽やかなタッチで表現する角谷氏。
過ぎ去った夏の曖昧な記憶を辿り描いたどこか遠い夏の風景画が並びます。
ぜひご高覧いただけると幸いに存じます。
思い出を誰かと共有して振り返る時、思い出すシーンは必ずしも一致しない。
印象に残る部分というのはとてもプライベートなものなのでそれぞれに微妙に異なる感覚を持っている。
海の青さを目に焼き付ける人、目を閉じて潮の香りを深く吸い込む人、それぞれが一番に思い出すものを持っている。
個人を通して経験した時間は共有されていたその時そのままではなく、その人のなかで反芻され誇張され、ある部分は抜け落ちて結晶になる。
「SUMMER 」においては作者の経験した夏の記憶、子供の頃から現在に至るまでの夏の時間が描かれている。
風景画とは本来屋外に出てその時の光や空気感を捉えて描き残すという側面が強いと思う。
今感じている空気をスケッチブックを広げ、その場で描き上げる。
そうした実感のある表現が画家の生きた眼差しを感じられるという点で魅力を持つのだと思う。
けれども今回の展示ではそのような風景とは少し趣の異なる、朧げな記憶のなかの移りゆくものに作者の眼差しが置かれている。
揺らめいている水面、暑い屋外から室内に入った時にすっと肌が冷めて汗が消える感覚、葉がさざめく音、遠い夏のそうしたものたちが断片になりながら自由に記憶の中を漂っている。
確かにあったのかもしれないし、そんな気がしただけなのかもしれない。キャンバスの上で幾つも経験した夏がレイヤーのように重なり、色を持ち、軽やかなラインになる。
客観的な記録では表しきれない主観を伴う記憶の風景は、時間を超越していつまでも夏の鮮やかさを保ち続けている。
RODGALLERY ディレクター
藤田つぐみ
梅がやっと咲き始めたが、今日は雪がちらついている。
アトリエは寒い。 貧乏ゆすりをしながら、早く暖かくならないかなと思う。
壁には描きかけの夏の風景がある。
-2025年2月の日記より抜粋
夏の個展に向けて、冬の間、何を描こうか悩んでいた。
去年の夏はあまりに暑くて、毎日のように早く冬にならないかと考えていた。
今はその暑さをうまく思い出すことができない。
無理やり思い出そうとすると、ボヤッと何かが浮かんでくる。
夢のような曖昧な夏の記憶を描いた。
角谷 沙奈美