2025.4.22

街を巡り、食と空間を楽しみつつ、現代美術に出会える場「Gallery & Bakery Tokyo 8分」

Gallery & Bakery Tokyo 8分 ギャラリーディレクター/プロジェクトマネージャー 佐藤 達哉 様

  

━━2024年11月、TODA BUILDINGの開業と同時に、中央通りに面した1階にオープンされましたね。ユニークな店名は、JR東京駅から徒歩8分の距離に位置することに由来する、というのも印象的です。そして、現代アートのギャラリーと、ニューヨーク発祥の「THE CITY BAKERY(ザ シティ ベーカリー)」さんが一緒になった空間も、店名と同じくらいユニークで、いい空間ですね。

  

ありがとうございます。天井までガラス張りで、カフェを利用するお客様などが見えることで、ギャラリースペースにもふらっと寄りやすくなっていると思います。また、海外に向けたPRなどはこれからですが、外国人観光客の方々が想定以上にいらしていて、撮影した写真をSNSでシェアしてくれるのもありがたいですね。

   

ここは最初の設計段階から、いかにアートを主役にして、作品をゆっくり鑑賞する方にも、食事やお茶を楽しむ方にも、居心地の良い空間にできるか、戸田建設さんやTHE CITY BAKERYさんと一緒に試行錯誤しました。多大なるご協力とご理解のおかげで、とても良い場所が完成したと思います。

  

店内の広さは98坪、300平米ぐらいあり、天井高は最高で5.3mと、国内でここまで天井高のあるギャラリーは少ないと思います。これは、日本の美術作家の方々が、海外で活躍する機会をもっとつくるために、大きな作品を制作・展示できる場と機会が非常に大事だと考えてのことでした。もちろん、作品が売れることも重要ですが、空間にゆとりを持たせ、ミュージアムのように優雅に美しく展示することを大切にしています。

  

Photo: Kenta Hasegawa  

  

━━こけら落としとして開催された、友沢こたおさんの個展は大きな注目を集めました。その後も、だいたい1か月ごとの会期で、幅広い作家の方々が個展をなさっていますね。

  

はい、実はすでに2026年12月開催ぐらいまで、作家の皆さんへお声がけしています。というのも、ここまでの大きな空間なので、準備期間をしっかり確保して臨んでもらいたいからです。

  

お声がけするかどうかは、所属しているギャラリーの有無は問わず、この先のアーティストキャリアを真剣に考え行動しているか、この広い空間に耐えうる大きなサイズの作品を制作できる実力があるか、そしてチャレンジする野心があるか、を検討して決めています。

  

この場所は、隣にアーティゾン美術館があり、上階には日本を代表するような現代美術のギャラリーがあります。国内外のアーティストや学芸員、ギャラリストなど、多くのアート関係者に観てもらえるかもしれないからこそ、作家の方々には、自身の新しい挑戦や意思を示す場として、ここで個展をやる意義を感じて取り組んでもらえたら嬉しいですね。

  

ちなみに友沢こたおさんは、当社のアーティスト・イン・レジデンスプログラムに2回参加してもらいましたが、コミュニケーションを重ねる中で、ご自身の中に秘めたる非常に強い想いがあり、こけら落とし展では、キャリア最大の平面作品にチャレンジしてもらいました。

  

 

 Tokyo 8分柿落とし展 友沢こたお 「Fragment」, Photo by Ryo Yoshiya ,  ©Kotao Tomozawa 

  

なお、展示作品を選定する際は、食を楽しむ空間なので、観ていて不快にならない、心地よくてずっと眺めていられる、という点を意識しています。どんな作品を制作するかは作家自身に委ねていますが、この場の特性を理解してもらった上で準備をお願いしていますね。

  

そして今のところは、平面作品、特に絵画の現代作家が中心ですが、いずれは、工芸や立体作品、インスタレーション、映像の作家らにもお声がけしていきたいと考えています。

  

  

━━今後、どんな作家の方が展示をするのか、楽しみにしています。

また、リラックスして食事や時間を過ごす場に、主役として作品が展示されていると、自宅に飾って日常のなかで眺めて過ごす体験にも近しいので、特に初めて作品を購入する方には、よりイメージが浮かびやすいかもしれませんね。

「東京アートアンティーク2025(以下、TAA2025)」のタイミングは、作品の展示替えをしている日もあるとか。通常なら閉廊して行われる作業かと思いますが。

  

はい、4月26日(土)がオートモアイさんの新作個展「Private Ritual」の初日で、直前の24日(木)25日(金)はまさに作品を設営している最中です。

ここはTHE CITY BAKERYさんにもご理解いただいて、無休で営業していまして。以前は定休日があったので、そこで展示替えをしていたのですが、いっそ全て見てもらおう、と逆手にとりました(笑)。ただ、展示の設営や撤収をしている様子をご覧いただく機会って、実は結構大事なのでは、と、個人的には思っています。

  

  

━━確かになかなか見られない光景ですが、現代美術やアートギャラリーという存在が少し身近に感じたり、新しい発見や気づきがうまれるきっかけになったりもしそうです。お店やギャラリー巡りの休憩もかねて、気軽に立ち寄ってみてほしいですね。

  

そうですね。TAA2025の冊子やマップを手に、いろんなところに出かけてみてほしいです。東京って展示の数が本当に多いから、自分でも未だにどこに行くか迷います。でも、実行委員会や事務局が紹介するお店やギャラリーなら行ってみる価値があるし、この街に初めて来る、お店やギャラリーに初めて伺う、という方にも安心ですよね。

  

とかく現代美術は、なんとなく“敷居が高い”と思われがちですが、僕の原体験は、瀬戸内国際芸術祭で、安藤忠雄さんが手がけた美術館の建築を行ったとき、空間と作品の強さに非常に惹かれたことでした。

元々建築が好きで学んでいたので訪れましたが、そこで、誰の作品が、というより、この場所そのものが良いな、と思ったとき、なぜこの場所がいいのかを考えるうち、この作品の展示の仕方が良いからだ、とか、この作品のこの作家が好きなのか、とか、どんどんと思考が深まっていったんです。

  

それ以降、本当にいろんな展示を観に行くようになり、今では仕事であり、趣味でライフワークのようになっています。2024年は700以上の催しに足を運びましたが、なぜこんなにたくさん観に行くのか、というと、自分の価値判断の基準を探るためであり、磨いて高めようと考えているから、なんですよね。

  

  

  

そもそも、自分が何を良いと考えるのか、何が好きなのか、どんなものやことに興味があるのか、案外分かっているようで分かっていなくて、言語化できていなかったんです。でもアートを観に行くことを通して、自分自身の理解が深まり、とても楽しいと思うようになりました。

  

なので、まずは日本橋や京橋の街を訪れてみる。そして、いろんなお店やギャラリーを巡って、この空間が好きだな、とか、このギャラリストがいいな、とか、自分が素敵だと感じた場所や人と出会えたら、そこで展示している作品も素敵なのでは、と、興味を持てそうなポイントをきっかけに広げていくと良いかもしれません。

  

   

━━ありがとうございます。そうですね、まずはぜひ多くの方に、日本橋や京橋にいらしてほしいですね。“プロ中のプロ”のようなオーナーやギャラリストがたくさんいらっしゃるので、お話を聞くだけでも、充実した時間になりそうです。

 

作品や展示を介してコミュニケーションが生まれるのも楽しいですよね。これからも自分の引き出しを増やしつつ、いろんな方々との出会いやつながり、知見を広げていきたいです。

ちなみに今、古美術についても少しずつ勉強していまして。例えば、北大路魯山人は非常に多才な方で、手がけたうつわなども魅力的ですよね。魯山人の作品は手が届きませんが、何かひとつ手元にあると、暮らしが豊かになるんだろうな、と思っていまして、TAA2025で探すのがとても楽しみです。

  

━━そうですね、TAAの会期中のみ、数千円~数万円ほどで買えるお品物が並ぶ、老舗のお店もありますし、ぜひ楽しんでください。本日はありがとうございました。

  

  

Gallery & Bakery Tokyo 8分
https://www.tokyoartantiques.com/gallery/gallery-bakery-tokyo8min/

  

インタビュー・執筆:Naomi
https://naomi-artwriter.my.canva.site/

撮影:東京アートアンティーク実行委員会

 

 

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