2025.4.17
「GALLERY 凜空」現代工芸と暮らす喜びに出会える空間

GALLERY 凜空(りくう) 鈴木 佳津子 様
━━GALLERY 凜空さんは、2024年3月にオープンされた現代工芸のギャラリーですね。八重洲通りや昭和通りから少し入った路面店で、大きな窓から、陶磁器や漆器など、素敵なお品物の数々が目を惹きます。
ありがとうございます。この窓は北東側に位置していますが、ここからの自然光で、作品の見え方が全く変わりますね。特にガラス作家の方には喜んでいただいています。かつてホテル・ニューオータニのロビー階にあったギャラリー「現代陶芸寛土里(かんどり、以下、寛土里)」で勤務していたときも、窓からホテルのお庭が見え、まるで大きな額縁があるような印象的な空間でした。
━━「寛土里」は、虎ノ門にある現代陶芸を中心としたミュージアム、「菊池寛実記念 智美術館(以下、智美術館)」の設立者だった、菊池智(とも、1923〜2016)さんが、1974年にオープンなさったお店でしたね。惜しまれつつクローズしてしまいましたが、ご自身も現代陶芸のコレクターとして、その魅力を広く伝えることに尽力された方でした。
はい、私も大変お世話になりました。当店にも当時からのお客様がいらしてくださっていますし、作家の方々からご紹介いただいたお客様にも多くお越しいただいています。
また、たまたま前を通りがかり、感動されて入ってこられる方や、今までそれほど興味がなかったとおっしゃる方が定期的にいらしてくださったり。そんなお客様との出会いは、ここでお店を始めるときの目標でもありましたから、本当に幸せですし、ありがたいですね。
━━ご紹介している作品は、陶磁器、ガラス、漆器、版画、金属と、幅広いです。伝統の技術や技法をふまえつつ、現代の暮らしに馴染むデザインが素敵です。また、日々の暮らしの中で使って楽しめるうつわ類から、作品性の高いオブジェまで手掛けている作家の方が多いですね。
そうですね、「寛土里」が「智美術館」と連携するようなお店でしたから、当初から、うつわかオブジェか、ではなく、両方をてがける作家をご紹介したい、と考えていました。
お客様にまずきっかけとして、うつわを手に取っていただき、その先でアートとしてのオブジェにも親しんでいただけたら、と。“このうつわを作る人が、こんなものも!”と、驚かれたり、作家の新たな魅力に気づいていただけたりすると嬉しいです。
「東京アートアンティーク2025(以下、TAA2025)」でも、ぜひ多くのお客様にご紹介したい、という作家の方々の作品を展示します。とてもモダンなデザイン、かつ扱いやすい漆器など、普段から使って楽しんでいただける、手に取っていただきやすい価格のお品物もございます。
━━とても楽しみです。鈴木さんご自身も、作家もののうつわを買い求め、日常使いされているかと存じますが、その魅力や楽しさって、どんなところにあるとお考えですか。
自分の手元で日々使っていると、毎日違う表情を見せてくれるような感覚があります。まるで自分のそのときの気持ちと連動しているかのようで、手にして良かったな、と思いながら使っていますね。また、用途や機能性で選ぶことも大事ですが、私はどちらかというと、シンパシーというか、一緒に生活する仲間として選んでいるのかもしれません。
思い込みかもしれませんが(笑)、自分と同じ時代を生き、制作活動を続けている作家の気持ちがこもっている分、返ってくるものがある気がしますし、自分の気持ちと寄り添う、自分の気持ちを反映するものとして選び、使って楽しんでいる感覚が強いです。そして何年も使い続けるうち、経年で変化していく魅力もあって、じわじわと愛着が湧いてきますね。
私自身、うつわやアート作品を「見る」だけから「買う」に移行したのは、実は「寛土里」に勤め始めてから、と、ずいぶんと時間がかかりました。初めて購入したのは、かわいい魚の絵が描かれた、落合美世子さんの染め付けの小皿。なかなか勇気が要りましたが、手にしてみると本当に生活が豊かになったので、その楽しさをお客様にも味わっていただけたら、お届けできたら、と、いつも思っています。
━━素敵なお話です。きっと多くのお客様も、作品を「見る」と「買う」の間に心理的な距離があり、初めて購入するまでには、ある程度の時間がかかるのでは、と想像します。
最初は少し抵抗感があっても、この大きな窓から中が見えていれば安心できますし、作品の一つひとつに、作家名や作品名、価格などが書かれている点も、初心者には特に嬉しいですね。
ありがとうございます。工芸の作品は、自然に任せて制作する部分が大きい世界です。特に陶芸は、窯を開けるまでわからない、想定外のものが現れた、という話を作家の方々からもよくお聞きしますし、季節やその日の天候、窯の中の炎の当たり具合、自然釉の状態など、人間だけではない、自然と偶然が作用する割合も大きいです。
また、代々続く陶芸の作家の方々は「土の神様がいる」とおっしゃいますが、本当にいるんだな、と思うような不思議な作品と巡り合うこともあります。何かが違うようで、例えばそのお茶碗でお抹茶をいただく、同じ茶葉を使っているはずが美味しくなったり、水すらも味が違って感じたりして、神秘性があります。そういった違いは、やはり見た目にはわからず、使って初めて気づくものでして。口をつけるときも、口を離すときの感じ、口離れも気にされる方がいらっしゃるほどです。
━━それはまさに、購入し使い続けてみて初めてわかる魅力ですね。初めての方にも、気になる作品があったら入ってみようかな、という感覚で寄っていただけると良いですね。
そうですね、私自身が初めて作品を購入するに至ったタイミングを振り返ると、小ぶりな作品と出会えた、というきっかけと、お店で勤務しているうちに、心理的な“ハードル”が下がっていった、という“慣れ”が作用したのだと思います。
ですので、TAA2025の3日間はもちろんですが、例えば通勤途中に通りがかってみるなど、少しずつ目にふれる機会を増やしていただくことが良いかもしれません。
また、作家ご本人のインスタグラムなど、SNSを通じて、活動の最新情報を得ることができる点も、現代作家ならではの醍醐味です。展示の際はご本人とお話しできる機会もありますし、ご自身と作品との距離を縮めるように、少しずつ引き寄せながら、楽しんでいただけたら嬉しいですね。
GALLERY 凜空
https://www.tokyoartantiques.com/gallery/gallery-rikuu/
インタビュー・執筆:Naomi
https://naomi-artwriter.my.canva.site/
撮影:東京アートアンティーク実行委員会