2025.4.16
「シルクランド画廊」“一期一絵”の出会いを、ひとりでも多くのお客様へ

シルクランド画廊 GM 顧 定珍 様
━━22年前の開廊以来、馴れ親しんだ銀座六丁目から、京橋の交差点近くへ移転・リニューアルオープンされたばかりとのこと、誠におめでとうございます!
「東京アートアンティーク2025(以下、TAA2025)」のタイミングは、移転して最初の展覧会の会期中と伺いました。
ありがとうございます。「TAA2025」への初参加、そして私どもの特別な節目となる今回は、これまでもこれからも、当画廊を盛り上げてくださるであろう作家の皆様にお声がけし、グループ展を企画しました。お部屋に飾っていただきやすい小作品を中心に、28名の作家の絵画、木彫作品60点余りをご紹介しています。
━━小さめのサイズの絵画なら、アート作品を購入する“最初の一歩”にしやすそうです。まさに「TAA2025」をきっかけに作品を買ってみたい、とお考えの方にぴったりの機会ですね。
そうですね。私どもの画廊のコンセプトが、一期一会ならぬ 『一期一絵 人生に彩りを』でして、お客様ご自身の目と価値観、心の琴線にふれるような感覚を大切に、「この作品は我が家にぴったり!」「ずっとそばに置いておきたい」と思っていただけるような作品と出会っていただく場をご提供できたら、と考えています。
といいますのも、私自身がアートと出会ったことで救われ、天職とも言えるようなこの仕事に就くことができましたから。
━━そうでしたか。ぜひ顧さんご自身のことを伺いたいのですが、もともとお生まれは?
中国の上海です。実は大学卒業後、4年ほど高校教師をしていた時期がありまして、その後、留学するために来日したんですよ。当時勤務していたのが、ファッションなどの専門教育を行う職業高校で、私自身も他の大学で学びながら、生徒にファッションデザインと化学の両方を教えていました。
ある時、すでに来日していた親友に誘われて来日、二年間の日本語学校を経て、文化学園大学(旧文化女子大学)大学院の修士課程で、服装社会学の研究に取り組んだのですが、特に大学院に進学する前は、非常に忙しかったですね。朝から6時間ほどアルバイトをした後、日本語学校へ通い、夜はまた別のアルバイトをして、という生活をしながら、日本語学校の授業料と生活費に、大学院の授業料を貯めて、加えて上海にいる両親への仕送りもしていました。
━━時間に追われ続ける日々ですね、本当に。
はい。上海で暮らしていた頃は、映画を観に行ったり、絵を描いたりもしていましたが、来日直後の当時はすっかり心がカラカラに乾ききってしまっていましたね。
大学院へ進学し、留学生を対象にした研修旅行に参加した際、エミール・ガレやドームのコレクションで知られる北澤美術館(長野県諏訪市)に伺ったのです。そこで目にした作品群のあまりの美しさに、思わず涙があふれ、気づいたら号泣してしまっていました。その出来事をきっかけに、来日して以降、精神的にすっかり貧しくなってしまっていたな、と気づき、美術館へ足を運ぶようになりました。
あるとき、中国国内にいる画家の友人から、「日本で個展をやりたい」と相談され、思い切って、当時、東京・晴海エリアで開催されていた「東京国際見本市」に出展しました。アートのことは全くの素人でしたが、催事を通して多くの美術作家の方と出会えましたし、百貨店の中に美術画廊があると知って営業にも行きました。
そうやってギャラリストとしてのお仕事を始めてみると、それまで学んできた専門知識のみならず、趣味としてやってきたいろんなことが全て活かせたのです。絵画も、歌も、ダンスも、デザインもすきでしたから。もちろん、いらしてくださるお客様とのお話も、です。
━━まるでドラマのようなお話ですね。何より顧さんご自身が、お客様とともに、アートをとても楽しんでらっしゃることが伝わってきます。
はい、とても幸せなお仕事だと思っていますし、私自身が、作家の皆さんの熱烈なファンであり観客ですね。
私どもでご紹介している作品は、日常的に眺め、楽しんでいただけるような題材が描かれた作品が多いです。そもそもアートを楽しむことって、限られた富裕層の方々だけのもの、ではありません。ある時は、太陽のような存在に、ある時はかつての私のように乾ききった心にもたらされる恵みの雨に、そして、暑さの中で感じる一瞬の涼風のように、私たちの日々の暮らしの中に溶け込んでいるもの、だと思いますね。
━━イメージが広がる、とても素敵な表現です。
ありがとうございます。それに、私どもの画廊は本当に、偶然の出会いから入っていらして、作品を購入されるお客様が多いのです。例えば、ウインドウに飾っていた作品を、路線バスの車窓からたまたま見かけて、近くのバス停で降りて戻っていらしたり、通りの向こう側で信号待ちをしていて、目に入った作品に惹かれるままに、という方がお見えになることも日常です。そしてその後、何年も長いお付き合いになっているお客様が、数多くいらっしゃいます。
また、書籍の挿画を数多く手がけられてもいる日本画の作家の方の色紙を、20代のお若い方が「この価格なら自分でも買えます!」と、涙を流しながら人生で初めて購入されたこともありましたし、とある作家の作品をお求めになるまで、3年にわたって通い続けてくださったお客様が、少しずつお金を貯めたのちに作品を購入され、ご家族で大切に楽しんでくださっている、というお話を当画廊のギャラリー通信にも掲載させていただきました。
お客様から素晴らしいエピソードをお伺いするたび、私どもは、お客様と作家の方々をつなぐキューピッドのような存在だな、と、とても嬉しくなります。
画廊は、作家の心から、お客様の心へと、感動をリレーしていく場所だと思っています。引き続きこの京橋の地から、おひとりでも多くのお客様に、作品と出会っていただく機会をお届けできたら幸せですね。
━━お客様の数だけ、唯一無二のエピソードがおありであることが伝わってきました。本日は貴重なお話をありがとうございました。
シルクランド画廊
https://www.tokyoartantiques.com/gallery/silkland-gallery/
インタビュー・執筆:Naomi
https://naomi-artwriter.my.canva.site/
撮影:東京アートアンティーク実行委員会