2025.4.23
展覧会・出版・学びの場から、現代アートと作家の魅力を広く深く伝えて「Yutaka Kikutake Gallery」

Yutaka Kikutake Gallery 菊竹 寛 様
━━菊竹さんは、現在も「アートプログラム」の取り組みをご一緒されている、タカ・イシイギャラリーの石井さんのもとで勤務されながら、2015年に六本木のスペースを開廊され、2拠点目である京橋のスペースは、2024年11月、TODA BUILDINGの開業と同時にオープンされました。それぞれの街や、足を運ぶお客様の違いを感じますか。
京橋は、訪れるお客様の年齢や職業などが六本木よりも幅広いですね。アーティゾン美術館や、骨董 古美術のお店が数多くあり、そこを巡ることを習慣になさってきた方々が立ち寄ってくださるなど、多様なお客様がお見えになります。街も少し落ち着いた印象です。
何より戸田建設さんがこのビルのエントランスでパブリックアートを展開するなど、文化芸術に親しむ場づくりに注力されていますから、今後も積極的に、アートプログラムなどでご一緒していきたいですし、こうした文化的なものに触れられる場所やエリアがもっと増えていってほしい、とも思います。
小林エリカ、ドレーヌ・ル・バ、鈴木ヒラク「形象 Keisho」 (会期: 2025年 4月12日 - 5月31日 )
Photo by Osamu Sakamoto
━━「東京アートアンティーク2025(以下、TAA2025)」の会期中は、小林エリカさん、ドレーヌ・ル・バさん、鈴木ヒラクさんという3名のアーティストによるグループ展が開催されていますね。オープン以来、グループ展が続いていますが、意図されてのことでしょうか。
はい、今のところ1年くらいは、グループ展を京橋で、個展を六本木で開催していく予定です。今回の3人展のタイミングですと、六本木では小林エリカさんの個展を開催しています。どちらも会期は同じ5月31日(土)までです。
本展の発端は、小林さんが手がけている新作の数々からでした。語られてこなかった歴史や個人の記憶、感情などから多様な表現の作品を制作している小林さんですが、個展では展示しきれないものもお見せしたい、と考えたとき、ドレーヌ・ル・バさんの、自身のルーツにまつわる文化や歴史、土地の記憶などから着想した多様な作品群と、鈴木ヒラクさんの“相互発掘”という概念で描かれるドローイングに、小林さんと通底するテーマがありつつ、視点や思考の広がりが生まれていくと考え、三人展の開催に至りました。ちなみに2023年には“空”を、2024年には“鳥”をテーマに、グループ展を開催しています。
個展の開催はとても大事ですが、グループ展として、例えば、さまざまな社会の事象に触れることのできる展覧会や、人間の根本に触れるようなテーマの展覧会を開催することも、もう少し広く多くの方と、作家や作品、展覧会が関わる “糸口”のような場や、いわば“参考書”のような存在として必要では、と考えてのことです。
━━なるほど。同時代を生きているアーティストの方々と展示を行うからこそ、の取り組みであり、テーマにされた“空”も、“鳥”も、いろいろなイメージが広がる言葉ですね。
そうですね、ギャラリーを運営していて最も面白いと思うのは、所属しているアーティストたちと日常的にいろんな話をするので、彼らが関心を持っていることや、考えていることから、展示の企画やテーマが生まれやすいんです。
さまざまな調査研究を経て展覧会を企画し、広く伝え、美術史を構築していく、という役割を担っている美術館とは異なり、作家や作品とともに、“遊ばせてもらえる場所”といいますか、もっと伸びやかな場にしていけたら、と。
国松希根太、斉藤七海、奈良美智、渡辺北斗、BOTAN&sumire「ささめきあまき万象の森」(会期終了)
Photo by Kenji Takahashi
━━少し話が逸れますが、日常的に会話なさっていて、現代美術のアーティストとはどんな存在だと思っていらっしゃいますか。
これはギャラリーのスタッフにもときどき話すのですが、アーティストは “魔法使い”だなぁと思っています。
ひょんなことから、タカ・イシイギャラリーで仕事させていただくようになり、アーティストの方々とコミュニケーションを重ねるうち、彼らの方がよっぽど、社会や世界のことから自分の周りの出来事まで、いろいろなことを深く考え、それをどんな作品として世に発表するか、も、非常に筋が通っているし、とても魅力的に見えたのです。
昔、岡本太郎がCMで「芸術は爆発だ」と言っていましたが、ギャラリーで働く前までは、芸術家とはちょっと変わっていて、世間から逸脱した感覚の人たちなのだろう、と、勝手なイメージを持っていましたが(笑)、もはや理想の人間なのでは?と思うほどに変化しました。
ただ、ここまで仕事を続けてきた今は、とても魅力的という意味で、やはりちょっと変わっているといいますか(笑)。言葉では表現し難い魅力をたたえておられる方ばかりだし、言葉や感情にならないようなことを作品で表現していて、それらは新たなイメージや刺激に溢れたものになっていて、やはり “魔法使い”なのでは、と。そして、その方たちと仕事をご一緒している、とはどういうことか、も、日々考えますね。
━━“魔法使い”という言葉は、とてもしっくりきました。広く多くの方へ、アーティストの表現を届けようと取り組まれている、菊竹さんならではのお話をありがとうございます。
広く多くの方に、と言えば、出版のご活動もとてもユニークです。『疾駆/chic』は、2014年にVol.1を、以降10号以上を刊行なさっています。もともと書籍編集のご経験があったのでしょうか。
いえいえ全く。ただ本も読書も好きだったので、自分でも作れそうかな、と思ってやってみました(笑)。
作った動機は本当にシンプルで、たくさんのアーティストの魅力をもっと伝えたかったからです。ギャラリーという“場所”を運営していることは大切だし、わざわざ来てもらうからこその魅力もありますが、ここに来られなくても、場所から生まれるエッセンスに触れられるようにするには、出版物が大事だと考えました。
また、世の中の多くの方々は、まだまだ「現代アートという存在が生活の中にない」「ギャラリーに行ったことがない」「何をしているのか知らないし、身近ではない」という状況ですから、どうしたらその距離を近づけ、エッセンスと面白さが伝えられるだろうか、と考え、アーティストブック、というよりも、あえて“生活文化誌”と掲げました。
実は『疾駆/chic』の前に2号だけ、『狂区』という本も出していまして。今、15年ぶりに3号を出そうと少しずつ準備を進めています。過去の2号はもうどこにもないと思うので、合わせて、また読めるようにできないか検討中です。
トレヴァー・ヤン、毛利悠子 「帰ってきたやまびこ」 (会期終了)
Photo by Kenji Takahashi
━━ありがとうございます。発表を楽しみにお待ちしています。
そして冒頭でも伺った「アートプログラム」や、戸田建設さんによる学びのプログラム「APK STUDIES」での取り組みなども、出版と同様、広く知って、体験してもらうための取り組みでしょうか。
そうですね。単に“教える・教わる”というより、参加した方のそれぞれの人生に成長のプロセスがあり、そこになんとなく存在している場、として、アートやアーティストに触れ、何かいいものを持ち帰ってもらえたらいいですね。「アートプログラム」も、引き続き、石井さんと連携しながら続けていきたいです。
また、“現代アートは見方がわからない”とよく言われますが、見方は鑑賞者それぞれに委ねられたものであり、「こう思った」も「なんだかよくわからなかった」も「とてもきれいで好き」もOKで、そのシンプルな感覚を大切にして、作品を観てほしいです。
これはかつて、子供が対象のワークショップを開催したときに、とても良かったなと考えたことの一つでして。つい、“この絵はこうです” “この作品はここが良いんです”といった、ある種、見えない“型”のようなものに、自分の思考を寄せてしまいがちですが、その必要は全くなくて、作品を観て自分が考えたことや、作品から受け取ったものをそのままに解釈して大丈夫ですよ。また、描いた作家本人が考えたことが“正解”とも限りません。まずは自分の感想がそのまま、その作品の解釈になると思って作品を観ていただくと、もっと楽しめると思います。
━━ 今日からすぐ取り入れられて、現代アートを観る面白さにぐっと増すようなお話でした。本日は貴重なお時間を誠にありがとうございました。
Yutaka Kikutake Gallery
https://www.tokyoartantiques.com/gallery/yutaka-kikutake-gallery/
インタビュー・執筆:Naomi
https://naomi-artwriter.my.canva.site/