2014.4.22

店主インタビュー GalleryMARI

寺下真理子さん

 

――まず、お店の特徴の特徴から教えてください。

寺下 扱っているのはオリエントの古美術です。西アジア中心で、メソポタミア、ペルシア、エジプト、ギリシア、ローマといったところまで扱っています。店も小さいし、私自身、小さいものが好きなので、展示されているのは小さいものが多いですね。

――「小さいもの」が好きになられたきっかけとかあったのでしょうか?

寺下 以前、私はオリエントの古美術を日本に紹介してた先駆者、石黒孝次郎さんのお店「三日月」に13年くらい勤めていたんですね。石黒さんは「大きいものは美術館や博物館で楽しめばいい。個人は小さなものを手にとって触ったり見たりして楽しむのがいい」とおっしゃっていて、かけらひとつにしても大事にされていました。ペルシャ陶器も完全な形じゃなくても、絵がいいと本当にかけらでもすごく大事にしていたのね。そういう影響を受けたと思います。

――小さなかけらのような陶片やガラス片も並んでいますね。

寺下 小さいものでぴしっとしているもの。大きくても味気のないものって、いくらでもありますでしょ。小さくても大きさを感じさせる、そういったもののよさや楽しさを教えてくだすったのが石黒さんでした。

――個人で集めて、見たり触ったりする楽しみ方もあるんですね。

寺下 こういうものって美術館や博物館で見るものと思われていますし、扱っている店が少ないもので、「買えるのね」とおっしゃる方って結構いらっしゃいます。

――オリエントの古美術の魅力とは、どんなところにあるのでしょう?

寺下 たとえば日本美術が好きな方でしたら、「この美術品のルーツは?」というところに気がつくとこのエリアってすごくおもしろい。そういうお客様、いらっしゃいますよ。「自分は日本美術のコレクターだからこっちの方は合わないと思う」とおっしゃっていたのに、いまではすっかりのめり込んでいらっしゃるお客様もいてくださいます。

――日本の美術品にも、どこか通じるものがあるわけですね。

寺下 日本美術に造詣の深いコレクターの方が、ペルシアの赤ガラス、アケメネス朝の台付きの小さな杯に惹かれたらしいんですね。その色が「根来(朱漆塗りの器)の赤に通じるものがある」とおっしゃって、それからずっとオリエントのもの、集めてくださってます。

――ルーツ探し、おもしろそうです。知らないことを知る楽しみってありますよね。

寺下 日本美術、中国美術というのは縦軸でつながっていますよね。だけどオリエントというのは横に広がっていくんでんすよね。影響しあう関係があって、それを比較したりするとおもしろい。トンボ玉なんて小さいものだから、すごく広い地域に流れてますでしょ。インドネシアにもよく似たものがつくられるようになってきますし、中国でも戦国玉とかがある。トンボ玉ひとつとっても、どこの地域のものかわかんないから調べていくのが楽しい、徹底的に調べて楽しむというタイプのお客様もいらっしゃる。

――「きれいだから好き」という方もいらっしゃるのでは?

寺下 もちろん、知識がないと楽しめないかというとそうではありません。感性で、ピンと自分に響くものがよくわかっていらっしゃる方もいる。自分が買ったものを「何時代だっけ?」とおっしゃって、気にしない方もいらっしゃいます。コレクターっていろんなタイプの方がいらっしゃる(笑)。

――寺下さんはもともとオリエント好きだったのですか?

寺下 私、石黒さんの「三日月」に勤める前、20代のころは東大でオリエントの古美術研究をされている先生の秘書をしていたんです。でも、最初は先生が地名をおっしゃてもぜんぜんわからない。ミーティング中の先生から内線電話で「○○の本を持ってきて」といわれたら、端から全部見て探すようなそんな状態でした。でも「ああ。おもしろい世界があるんだな」と、興味を持っていったんですね。先生のコレクションを見せていただいたり、触らせてもらったり、今思うと大変な財産になっていますね。その東大の先生と石黒さん、とても仲のいい友人だったんですね。石黒さんは京都大学を出ていらして、勉強の大好きな古美術商でした。ご自身のコレクションで論文を書かれたときは、先生が「てにをは」から直すように添削して、それがまた楽しくてしょうがないというような、そんな仲のいいお二人だったんです」

――そのご縁で石黒さんの「三日月」に移られた。

寺下 先生が定年退官を前に亡くなられた後、石黒さんから学んだことを生かして秘書的なことをして欲しいと頼まれました。そうはいっても、やはりお店ですから、お客様がいらっしゃればコレクションルームにご案内したり、売り買いではお手伝いをしたり、そういったことが、今につながったなと思ってます。

――こちらでお店を開かれたのが2000年だそうですね。

寺下 石黒さんも亡くなられて「三日月」を辞めた後、自分の店を出そうとは思ってませんでした。何人かのお客さんと博物館などに納めていけばいいかなと思ったんですよ。知人の紹介でこのスペースが借りられることになって始めたんです。

――外から中の様子が覗けるのがいいですね。

寺下 「ウインドウの両サイドから中が覗けるのでいい」ってお客さんがおっしゃるのね。右と左で、置く場所を変えると違う表情に見えますし、好きな古美術をおいて楽しめる職業ってなかなかないなと。通りがかりで「おもしろそうだ」といって入ってくるお客さんもいらっしゃる。そんな出会いもお店をもたないとできなかったことだなと思ってやってます。

――手にとって触れるということに驚きました。

寺下 お店ではいくらでも手にとってご覧になってください。どんないいものでも美術館や博物館でガラス越しに見るものと、かけらひとつでも手にとって見るのとは違います。
ペルシャ陶器でもガラスでも時代を経てきているものって思っているよりも軽いんですよ。そんな質感とか、ガラス越しでは楽しめない。手にとるから楽しめる。だから私は、なるべく個人の方に持っていただきたいという気持ちが強いんです。というのも、博物館などに納めてしまうと、二度と市場に出て来なくなりますでしょ。個人のコレクターの方だと、大切に手元で楽しんでくださって、一時自分が預かっているんだ、次にまた好きな人に渡して上げたいといって大事にしてくださる。それがいいなと思うんですよ。

 

2014年4月14日

Gallery MARI

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