2025.4.23

古美術に導かれるようにして出会った、なげいれの花とその魅力    花人 横川志歩さん

横川 志歩様

   

━━つい先日、京都・八瀬の瑠璃光院さんで素晴らしい花会を催された横川先生ですが、「東京アートアンティーク2025(以下、TAA2025)」の会期中は、古美術 川崎さん、古美術 京橋さん 、風招さん、つつみ美術さん、そして五月堂さんの5店舗で、それぞれのお店が準備した花器に、なげいれの花のいけこみをなさいますね。楽しみにされているお客様がとても多いことと存じます。

  

ありがとうございます。こちらこそ、以前から会期中、教室の生徒たちと巡っていましたので、お声がけいただいて嬉しかったです。事前にそれぞれのお店へ直接伺って花器を見せていただき、店内の雰囲気とも合うよう、花を選んでいけこみを行ってまいります。

*古美術川崎は「山」「立」「可」。

  

実は、古美術 川崎の川崎さんとは十年来の友人でもあるんです。台東区柳橋のルーサイトギャラリーさんで開催されていた、「古美術展示即売会まどか」でご一緒してからの縁ですね。会期中は街歩きを楽しみつつ、さまざまなお店を楽しんで巡っていただきたいですね。

 

  

━━そうですね、この会期だけの、本当に特別な機会ですね。

そもそも横川先生がなげいれのお花をはじめたのは、実は古美術好きが高じて、と伺いました。

 

そうなんです。もともと両親が古美術好きで、普段から古伊万里のお皿などを使っていましたし、家にあるのが当たり前でしたね。サントリー美術館で薩摩切子展を観て「これであんみつを食べたらきっと美味しいよね」なんて話すような小学生でした(笑)。

 

母が骨董店で何を買うのか、お店を一緒に巡りながら見ていましたし、日々の食卓や、京都の料理屋さんで目にしたお料理などを通して、こんな風にうつわを使えばいいんだ、と気づいたり、自分だったらどのように盛り付けると素敵かな、と考えたり。初めて自分で買ったのは蕎麦ちょこで、中学生の頃でしたね。

 

やがて、古美術へきれいにお花をいけることを学びたい、と思いはじめ、花人の川瀬敏郎先生に師事しました。母が若い頃から長らくファンでして、自宅に書籍もたくさんあり、花とうつわを共にいかす「なげいれ」を習うなら川瀬先生しかいない、と。

以後、家に花器もありましたが、さらに本腰を入れて深く勉強するようになり、自分の手の届く範囲から少しずつ揃えていきました。いまはもう、古美術を買うために仕事をしているといっても過言ではないかもしれません(笑)。

 

 

鉄製の灯火器を花器に見立てて、京都の春の山で採った花たちをいれました(京都 瑠璃光院「緑蔭花 横川志歩花会」)

 

 

室町時代の華籠(けこ)に宝石の様な実がついた龍の髭と石菖を(京都 瑠璃光院「緑蔭花 横川志歩花会」)

  

  

 

 

なげいれの教室で教えることを始めて、まだ10年にも満たないのですが、生徒の中には、花をいけるのが初めて、古美術について全く知らない、という方も数多くいますから、「これは漆桶といってね」とか、「これは平安時代の常滑の大壺の破片で」とか、品物がそもそも何か、花器としてどのように見立て、花をいけるのか、一つひとつ教えています。

  

もちろん、現代作家の方々の花器も素敵ですし、お教室のオリジナルの花器や敷板をつくっていただいている方もいらっしゃいますが、生徒たちは、なげいれの花を通して古美術や骨董の見え方がガラッと変わり、どんどん興味を持つようになるんですよね。現代の洋風の室内にも古美術が合うんだな、日本の花をいけるととても素敵で、花もうつわも引き立て合うんだ、と。

  

私自身、古美術に花を入れたい、と自身が楽しむためになげいれを習い始めたので、まさか教える側になるとは思ってもみませんでしたが、生徒たちには、せっかく習うのなら教室だけではなく、習慣として日々の自分の暮らしに取り入れて活かしてほしい、と思って授業を続けています。花の魅力も、古美術や骨董の魅力も、次の世代の人たちへ伝えていきたいですね。

  

   

━━そうでしたか。でも仰る通り、学んだことを習慣にして身近なものにする、毎日見る、ということは大切ですね。

  

はい。また、古美術をはじめ、料理やインテリア、歴史、文学などいろんなことに興味を持ち続けていたおかげで、いつのまにか点が線になるように、今はあらゆることが活きているので、両親には本当に感謝しています。

  

例えば現在、週に10件以上いけこみの仕事に伺う場がありますが、花とうつわ、そして空間の全てが三位一体となり、美しく素敵なものにしなければなりません。

なげいれの花は、“無私”であること、人の気配を消し、いかに花を活かすか、古美術を活かすか、が大切です。自分のことは横におき、花の声、うつわの声に耳を傾け、“この花はこういううつわに入りたいんだろうな”、“この器にはこういう花を入れてほしいんだろうな” とイメージして入れるのは、難しいけれど面白いですね。

  

 

 

  

━━素晴らしいお話です。お花と花器、そして空間との出会いを通して、日々、誠実に、なげいれと向き合っていらっしゃるのですね。

横川先生ご自身が、その“目”や“心持ち”を磨くため、普段から心がけてらっしゃることをお聞かせください。

  

子供の頃からの習慣でもありますが、なるべく美しいものを見ること、でしょうか。美術館や骨董店へ足を運んだり、美しくて美味しいお料理を出してくれるお店へ伺ったり。もちろん、見てるだけではだめで、身銭を切って品物を買い、自分で使うことも大切です。

  

なげいれのことで言えば、自然の中に身を置き、風景を眺め、ひたすら「花」を見続けること。川瀬先生も、山の中を歩いて歩いて歩き尽くしていらっしゃいますし、美術もとにかくたくさん見続けていらっしゃいます。

今も年に4回ほど、教室に通わせていただいていますが、師匠の花を見て目を洗って出直して勉強して、の繰り返しです。追いつくことは一生ないでしょうし、本当にまだまだ頑張らなければ、と思っています。

  

  

━━横川先生、そして川瀬先生の真摯な姿勢に、背筋を正される思いがしました。

今日は、花器、食器、また、酒器や仏教美術の品々もお好き、とのことで、素晴らしいコレクションを拝見させていただきました。胸元には美しい翡翠の勾玉が光っていて、本当に素敵ですが、最後に、横川先生が思う古美術や骨董の魅力と、それを楽しむ “最初の一歩” のヒントを教えてください。

 

 

  

そうですね、まずは、自分が古美術や骨董の中で何が好きなのか、幅広くいろいろと良いものをたくさん見て、好きなものを見つけることでしょうか。少しでも興味がわいたら、美術館へ観に行ってみたり、本で調べてみたり、ちょっと勇気がいるかもしれませんが、古美術や骨董のお店にも入ってみたりしてほしいですね。

   

そして、買える範囲のものでいいので、何か一つ、買って使ってみてください。最初は蕎麦ちょこなどの食器が使いやすいし、リーズナブルで良いかもしれません。何でもそうですが、やはり手に触れて、実際に使ってみてほしいです。

  

ペンダントにしているこの勾玉、実は弥生時代のものなのです。当時、これをつくることがいかに大変だったか、思わず考えてしまいますよね。

何千年も前にこれを手がけた人々の息吹を感じながら、身に着けて使うことができたりする。そんな古美術や骨董って、なんだかものすごく壮大な時間を感じられて、素晴らしいな、と思うんですよね。

  

  

━━ありがとうございます。今日の横川先生のお話を通して、古美術やなげいれのお花に興味を持った方がたくさんいらしたことと思います。貴重なお話を誠にありがとうございました。

  

  

横川志歩先生の「 なげいれ」の花
https://www.tokyoartantiques.com/event/shiho-yokokawas-nageire-ikebana/

展示予定や、なげいれの教室に関する最新情報は、先生のインスタグラム https://www.instagram.com/shiho_yokokawa からご覧ください。

 

 

インタビュー・執筆:Naomi
https://naomi-artwriter.my.canva.site/

撮影:東京アートアンティーク実行委員会

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