2024.3.30

繭山龍泉堂が築いた110年余の礎をもとに、「RYUSENDO GALLERY」が刻む新たな歴史

繭山龍泉堂 及び RYUSENDO GALLERY 取締役 田中成之様

繭山龍泉堂 及び RYUSENDO GALLERY 取締役 田中成之様

東洋古美術と現代アートが融合する「RYUSENDO GALLERY」

東洋古美術と現代アートが融合する「RYUSENDO GALLERY」

 
――昨年、繭山龍泉堂の現代アートギャラリー「RYUSENDO GALLERY」が本格的にオープンしました。ギャラリーのコンセプトについて教えてください。

 
RYUSENDO GALLERYは、100年以上にわたり東洋古美術を扱う繭山龍泉堂が培った感覚・美意識をベースにしながら、現代の作家さんと一緒に新しいものを作っていこうというコンセプトのもと始動しました。

古典に根差しながら新しい作品づくりを目指す「コンテンポラリーアートギャラリー」です。古典とは数千年や1万年の中で先人たちが作り上げてきた技術の集積です。それをベースにしながらも、現代にしか表現しえないような作品を作家さんと一緒に作っていきたいと考えています。一番大事にしたいのは、東洋古美術の美の中心部にある、変わらない原理原則です。

 
――ギャラリーの内装も非常に特徴的ですが、特にこだわったポイントはどこでしょうか。

 
一番こだわったのは、壁に漆喰を使うことです。漆喰も簡易的なものではなく、海藻を使って昔ながらの工程を経て作るものを使用しています。また、既存の建物を大切にしながらも、1・2階を吹き抜けにしたり、3階に天窓を大きく開けたりして、自然光ができるかぎり建物内部に入る工夫もしました。

日本の美術館は屋内を比較的暗くし作品をライトで照らすのが一般的ですが、欧米の美術館は自然光を取り入れているところがかなり多いです。元の建物の良い部分も活かしながら、そういった建物も参考にして改装を進めました。

 
北宋時代の英知を感じられる、新しい陶芸作品を制作

 
――東京アートアンティーク2024ではどのような作品を紹介する予定ですか。

 
陶芸作家の伊藤秀人さんに作っていただいた「CELADON:FLAT」という作品を展示します。北宋時代のやきものの中でも、特に官窯青磁の雰囲気をイメージして制作した作品です。立体造形でありながら平面としても成立する青磁作品で、色彩への没入感がある作品になっています。観にいらした方が新たなやきものの可能性を見出していただければ嬉しく思います。

 
――この作品にたどり着くまでには、かなりの試行錯誤や苦労がありましたか。

 
構想で5年、制作期間で一年近くかかっています。最初は板状の胎土に釉薬をかけただけの状態から、鑑賞物として成立するようにするためにどうするかを考えるのが一番大変でした。青磁釉は通常、表面張力で盛り上がるものですが、この作品では盛り上がらずに平らにしています。これがかなり重要なポイントです。

その通常とは違う平らさを出すため、エッジの作り方についても何度も試作を重ねました。

今回の作品は2つの方法を用いて作られています。シンプルな形ながらも実際はとても手が込んでいて、その緊張感も含めて、鑑賞者には「なんか綺麗だな」とか「清涼な雰囲気があるな」と感じてもらえれば幸いです。この作品を観た時に、縁のところから北宋の士大夫の求めたものが漂うような雰囲気が欲しかったんですね。ただ単にシャープにすればいいわけでもないし、厚ければいいわけでもなく、その感覚を伝えながら細かく表現していく作業を重ねていきました。

 
――作品の色や造形について、特に見てほしいポイントはどこですか。

 
色は一点ずつすべて異なるんですが、実はこの作品は色が主な要素のように見えて、一番大切にしたのは形なんです。形が出来てから色に行くプロセスを何よりも重視しました。

武道にしろ書道にしろ、何でも型が身につかなければ応用はできません。型さえ体に染み込んでいれば次のステップに進めますが、意外と型の重要性は置き去りにされがちです。それと同じで、この作品で最も目を引くのは青磁の部分ですが、そこに最初からフォーカスしないことを意識していました。

まずは何よりも形を優先し、いわば作品のエネルギーをためておく「入れ物」を作ろうと思いました。入れ物がないのに、中の色にこだわっても仕方がないからです。そのうえで青磁釉がそこに入り、美しい色を創り出すことが初めて叶うという考えで制作しました。

 
――伊藤さんの作品を見て、今回の「CELADON:FLAT」のインスピレーションを得たのですか。

 
企画案自体は5年ほど前にはすでにありました。ただ、作家さんがいなければ成立しないものなので、アイデアとして温めていました。伊藤さんが適任ではないかと思い社長の川島に相談したところ、それはいい案だということで承認を得ました。伊藤さんとは10年ほど前、アートフェア東京で繭山龍泉堂の前のブースに伊藤さんの作品が紹介されていて、彼の存在を知りました。

そのブースでは伊藤さんの古典を模倣した陶芸作品を展示していて、とても目の付けどころが良い方だと思いました。それで声をかけたのがきっかけです。

彼に「こういうものを作ってほしい」と話したのは2年ほど前で、できますよというお返事をいただき、本格的に作品づくりが始まりました。

 
作品を手元に置いて「変化する楽しみ」が味わえる

 
――伊藤秀人さんの作品「CELADON:FLAT」の楽しみ方について教えてください。

 
この作品は釉薬が通常よりも分厚く中に溜まっているため、貫入がたくさん入るんですね。窯出ししたときに一番多く貫入が入るのですが、徐々にそのスピードを落としながらも、半年ほどはゆるやかに貫入が増え続けます。

ですので、家に飾ったあとも少しずつ表情が変わっていく楽しみがあります。最初は小さな変化なので、もしかしたら気がつかないかもしれません。しかし、一緒に生活していく中である時ふと「なんか変わったな」と気づく。作品を手にしてからも時間とともに成長し、見え方が変わっていく様子を楽しんでいただけると思います。

 
――「CELADON:FLAT」をRYUSENDO GALLERYに飾る際のこだわりは何でしょうか。

 
額は作品に合わせて、一つひとつ1ミリ単位で調整しています。品物に一番最適だと思う額をつけることと、重厚さがありつつも鈍重にならない額にすることにこだわり、作品が最も生きるように工夫しています。

作品はすべて色が異なり、ブルーからグリーンにかけての階調があります。観に来てくださった方に楽しんでいただけるよう、古美術の立体作品も一緒に並べて、同時に観てもらう形にしようかと考えています。

本来、古典もその時代の「現代美術」であり、その良さが語り継がれてきたからこそ今「古典」と呼ばれています。美術品の一つの楽しみ方として、古典も現代作品もフラットな感覚で鑑賞することが大事だと考えます。

古典の中でも最高峰のものは、技術の素晴らしさによって、作者の精神のエネルギーが作品の内に籠っています。今回の「CELADON:FLAT」も同じように、伊藤さんの培ってきた「技術」によってエネルギーが籠るように作ってもらいました。

エネルギーが内にこもって外に漏れないようにすることに集中していくと、作品はどんどん静かになっていきます。そういったところは宋磁にも共通するところがあり、そういった意味で「CELADON:FLAT」が古い作品たちとともに並んだ姿を鑑賞していただけるのが今からとても楽しみです。

 
――東洋古美術の技術や美意識をベースにしながら、現代の作家とともに新しいものを作りたいと考える「RYUSENDO GALLERY」。まさにそれを体現した作品が、東京アートアンティークでも観られるのは待ち遠しいですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。

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