2023.4.22

若手作家や美大生に多くのチャンスを!八犬堂が手掛ける企画展への想いとは

東京都中央区京橋でギャラリーを構え、主に若手作家の活動を支援している「八犬堂」。毎年開催する「見参」は、作家を志す人たちの登竜門的なイベントとして注目を集めます。「見参」のプロジェクト実施に対する想いや、ギャラリーが今後目指す姿について、代表の大久保さんに伺いました。

    

フランス留学の経験を活かせる仕事を探し、美術業界へ飛び込む

  

――大久保さんが美術業界に入ったきっかけを教えてください。

私は美術大学ではなく一般の大学を卒業したのですが、もともと美術業界に入ることはまったく考えていませんでした。大学卒業後にフランスに2年留学し、日本に帰ってきたときにフランス語が活かせる仕事を探していて、それがたまたま美術業界だったのがきっかけです。最初に働いていたところはフランス人作家さんが常時30名ほどいて、その方たちが来日展をする際に通訳やアテンドをしていました。美術業界に入ったのはフランス語が話せたからで、美術への興味は人並みだったと思います。

  

――八犬堂を立ち上げるに至った経緯を教えてください。

八犬堂の立ち上げメンバーは、以前に私と同じギャラリーで働いていた人が中心となっています。もともと独立心があったわけではないのですが、前職でお取り引きのあった方たちから「もし会社を立ち上げるんだったら協力するよ」と言っていただいたのがきっかけとなり、当時は3名のメンバーで2010年11月に八犬堂を創立して、今年で13年目となりました。今は6名の体制でデザイン制作や美術関連、経理業務などを役割分担しています。

  

――以前は別の場所にギャラリーをお持ちだったそうですね。

京橋には2022年5月に引っ越してきました。以前は、世田谷区池尻の廃校となった中学校を再生した施設「ものづくり学校」の一教室をギャラリー兼事務所として借りていました。そこでは8年ほど展示をしていましたが、以前から京橋地域にギャラリーを持ちたいと思っていたため、今はその念願が叶って嬉しく思っています。今のギャラリーには一面だけ赤色の壁があるのですが、これは池尻の展示スペースの雰囲気を残し、訪れる方にも八犬堂らしさを覚えてもらうためにあえて同じ色にしました。

   

八犬堂主催の「見参」は若手作家の登竜門的イベントに

  

――八犬堂が展示の際に作家さんをセレクトする基準は何ですか。

京橋の八犬堂ギャラリーや、百貨店・アートフェアを含めて、現在は年間120回ほど展示をおこなっています。それも一つの展示の巡回ではなく、一つ一つの展示に個別のテーマがあるので、それに合う作家さんたちをお誘いする形でセレクトします。ある程度は技術的に一定のラインを超えている必要はありますが、現役の美大生ともお付き合いがあるので、「今の時点では未熟かもしれないけどいいものを持ってるね」と思う人たちは積極的にお誘いして、作家さんたちにも経験を積んでもらえればいいかなと考えています。

  

――どういった作品を扱うことが多いですか。

通常、ギャラリーといえば一定のスタイルに合った作家さんだけを集めるなど、それぞれ特色がありますよね。しかし、八犬堂は多くの若手作家さんとお付き合いがあるため、それぞれスタイルや表現方法は全然違います。日本画・洋画・立体・現代アート・抽象絵画など、ありとあらゆる表現をする方たちとお付き合いしていて、これまで約800人の作家さんとご一緒させていただきました。

  

――800人とは驚きです!それほど多くの作家さんとどうやって出会っているんですか。

八犬堂が今のスタイルになった大きな転換点は、2012年から始まった「見参」という展示会でした。若手作家さんや美大生が参加する、いわゆるアンデパンダン展です。以前運営していたところから、「参加者が100人を超えて運営が難しくなってきたからやってくれないか」ということで、八犬堂が引き継ぎました。この展示会は今も続いていて、参加者は200名を超えることもあります。

当初「見参」は無名でしたし、出展者の大学や専攻、作品のジャンルにも偏りがあったため、私自身が美術大学の芸祭や卒業制作展に行って若手作家さんに積極的に声をかけていきました。そうしているうちにお付き合いのある作家さんはどんどん増えていき、八犬堂も「若手作家の登竜門的な『見参』をやっているところ」というイメージが定着してきたと思います。   

   

若手作家が創作活動を続ける「きっかけを得る場」をつくりたい

  

――美大生や若手作家さんたちがチャンスをつかめるような機会を多く提供されているんですね。

もう少し前の世代の作家さんたちは、若手が作家活動にシフトしていくのが難しい時代でした。卒業制作展で声がかかるのを待ったり、貸し画廊で個展を開いてチャンスを得たり、みんなそうやって頑張っていたと思います。でも今の時代はSNSの普及もあって、作家になりたいという気持ちがあればスタートラインに立ちやすくなりました。八犬堂だけでなく、他にも若手作家さんたちを扱ったり声をかけて育てたりしているギャラリーは、昔に比べると増えていると思います。

  

――若手作家さんと関わる中で、印象に残っているエピソードはありますか。

私は「見参」で関わった若手作家さんとの間で、忘れられない出来事があります。一般的に作家さんは、売れるかどうかがわからない中で活動しています。技術面だけでなく表現面で尖っている作家さんは特に、なかなか結果が出ずに「どうせ誰からも良いと言ってもらえない」と不貞腐れている人たちが多いんですね。ある時の「見参」で、私のよく知るコレクターの方が一つの作品を見て「今回の中でこれが一番いいね」と言ってくれました。翌日、その作家さんに「知り合いのコレクターさん、あなたの作品が一番良いって言ってたよ」と伝えたら、普段はあまり笑わない人なのにものすごく良い顔で笑ったんです。それを見た時に、「私たちは良いことをしてるのかもしれない」って思いました。

  

――自分の可能性を誰か一人でも信じてくれるのはすごいことですし、そういう場を大久保さんたち八犬堂が作っているのは素晴らしいと思います。

「自分の絵なんて誰も好きでいてくれない」と思ってる人が、一人でも「あなたの絵が好き」と言ってくれる人を見つけることが大事だと思います。作品を買うかどうかは置いておいて、そんな人がいれば作家さんは「その人のために次の絵を描こう」と思えます。結果が出るまでに時間がかかったとしても、作家活動をしたい人には「地球上に一人はあなたの絵が好きと言ってくれる人がいるのだから、作家活動とは自分の絵を良いと評価してくれる人たちを探す旅みたいなものですよ」と伝えたいですね。数回で結果が出なくて諦めるのではなく、焦らないで自分の作品を露出する機会を継続していくのが大事だと思います。

  

――作家さんと接する際に八犬堂として大事にするポリシーは何ですか。

私たちの経験上、「今回は売れないかもしれない」とわかる場合もあります。しかし、「それは売れないからダメ」とは絶対に言いません。失敗するとわかっていても一緒に失敗して、一緒に頭を抱えて何がいけなかったか考えることをしたいですね。それが八犬堂の13年間続いているスタイルです。作家さんはそもそも絵を描くのが好きで始めたんだと思います。だから辞めるのはやめて欲しいし、絵を描くのを嫌いになるのも避けたいです。八犬堂と関わらなくなっても、どこかで必ず作家活動は続けていて欲しいと思います。作家さんが活動を続けるために自分ができることは何だろうと日々考えながら接していますね。

  

豊富な企画で多くの作家と作品を紹介し、アートの面白さを発信

  

――八犬堂が持つ、他社にはない特徴は何でしょうか。

八犬堂が開催する展示会については、特定の作家さんに特化するのではなく、企画展の面白さやたくさんの作家さんが参加する展示の面白さを伝えたいと思っています。八犬堂はおそらく現存取扱作家数で言えば日本一だと思いますし、売約作品点数もかなり上位に入ると思います。それは展示会を年間120回開催していて、巡回ではなく一つひとつ独立した企画展をおこなっているからです。

2018年から続いている松坂屋と共催の公募展は年間4〜5回開催しますが、私たちがおこなう公募展のポリシーは、入選して終わりではなく作家さんと継続してお付き合いすることを重視しています。できる限り多くの作家さんをお誘いして、様々な展示を来場する方に楽しんでもらいたいと思っています。

ただ、八犬堂ギャラリーでの展示についてはこれら外部の展示会や公募展とはコンセプトを変えています。

  

――八犬堂ギャラリーのコンセプトについて詳しく教えてください。

ギャラリーでは何百人と知り合う作家さんの中で、ずっとお付き合いしていきたいと思う方や、グループ展ではなかなか良さが活かしきれない方を選んで個展を開催しています。大勢の中では埋もれてしまう作品や作風だけれども、個展としてギャラリーの空間を埋めたら素敵だろうなという人にお声をかけます。主に20代や30代の若手作家さんが中心ですが、個展の経験があまりない方でも敷居が低く始められるのがメリットですね。

  

――今後、会社としてどんな風に発展・成長していきたいと思いますか。

京橋にギャラリーを持つ夢が叶ったのですが、将来的には面白い立地とユニークな建物でギャラリーを持ちたいなと考えています。私たち八犬堂は業界でも特殊でユニークな存在になりつつあると思っているので、その期待を裏切らずに面白い場所で挑戦したいですね。例えば、以前に物件を探していたときに廃業した旅館がありました。そういう場所を借りてみるのもいいなと思います。

八犬堂はいつも柔軟に様々なことをやる中で、若手作家さんとの交流が生まれたり公募展を開催する立場になっていったりしました。ですから5年後や10年後の明確なプランを立てるよりは、その瞬間で自分たちのベストを尽くしたクオリティの高い企画や、面白いと思ってもらえる企画をやり続けていきたいと思います。

  

――様々な出会いを活かして新しい企画につなげてこられた、八犬堂ならではの素敵な考え方だと思います。

色々な活動を通して八犬堂に興味を持ってくれる方がいれば、きっと私たちが考えもしなかった提案が来ると思います。そのときはなるべく断らずに受けていきたいですね。明確にプランを立ててしまうと、プランに合わないオファーを断ってしまうかもしれないからです。可能性を自分たちで消してしまわずに、常に右へ左へフットワーク軽く動けるようにしたいです。これまでもそんな形でやってきて、毎年必ず新しいことに挑戦できていますから、今後も新しいご縁をつなげていく進み方をしたいと思います。

   

若手作家の魅力を伝える拠点を目指す

  

――今度の東京アートアンティークでは、どんな作家さんを紹介する予定ですか。

佐藤Tさんの個展を開催する予定です。佐藤Tさんと知り合ったのは2019年の「見参」がきっかけで、すごく個性的で面白い人物画を描かれる方です。通常の女性をモチーフにした美人画だと、なるべく女性を美しく描くことに重点を置かれがちですが、佐藤Tさんの作品は現代のリアルや人物が持つ影の部分に焦点を当てるような作品が特徴です。以前に池尻のギャラリーでも佐藤Tさんの個展を開いたことがありますが、今のギャラリーは面積が2倍になりましたから、この広い空間を佐藤Tさんの作品で埋めるのがとても楽しみです。

  

――東京アートアンティークにいらっしゃる方々にメッセージをお願いします。

京橋は絵画の他にも、骨董通りなどもあって美術作品が好きな方たちがとても楽しめる場所です。八犬堂ギャラリーは若手作家さんを中心に企画展をやっていて、今までの京橋にはあまりなかったタイプのギャラリーですから、さらに違った楽しみ方をしていただけるかなと思います。ぜひお気軽に立ち寄っていただいて、こんなギャラリーがあるんだ、今の若い人たちはこういう絵を描くんだと新しい視点を得ながら見てくださったら嬉しいですね。

  

――八犬堂さんが展示される若手作家さんの作品を通して、お越し下さる方にも新たな発見がありそうだと思いました。本日はありがとうございました。

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