2026.4.9

茶道具を通じて価値観の共有を。100年の歴史を受け継ぐ 日本橋の「三沢美術」

株式会社三沢美術 代表取締役 三沢 壮一郎様

 

━━まずはお名前とお店の屋号、扱っていらっしゃるものについて教えてください。

株式会社三沢美術、代表の三沢壮一郎です。古美術全般を扱っていますが、茶道具が好きなものですから、特に茶道具に力を入れています。

 

━━創業は何年でらっしゃいますか?

大正末には、岡山の入札に祖父が参加している記録が出てきますから、約100年ほど経っているとは聞いております。

私で3代目になります。母方の叔父が2代目をしていまして、その後を継がせてもらいました。

 

━━なぜこの世界に入ろうと思われたのですか?

幼稚園の頃、お年玉を握って祖父の三沢美術店に行って、飲みもしないのにぐい呑みを買ったりだとか、印材を買ったりだとかしていたみたいです。小学校ぐらいになると他の子たちと同じようにおもちゃが欲しくなってやめたみたいですけども。その頃に買ったぐい呑みは今でも持っていますね。

 

━━すごいですね(笑)。

多分、商品の中で一番安いようなものを買っていたんでしょうけど、訳も分からずに買ってみるとか集めてみるということに、興味があったみたいですね。

 

━━本格的に興味を持ち始めたのはいつ頃ですか?

丁稚に入ってからですね。大阪に修行に行きましたけど、そこで修行しながらどんどん魅せられたというか。

 

━━何年くらい修行されていたのですか?

5年間です。住み込みで、ご飯もそこで食べさせてもらって、お風呂だけは銭湯に行っていました。意外と古風な家で、ご飯なんかはちゃんと神様、それから仏壇にお供えした後、主人がいない時には主人に「お初(おはつ)」って言って、主人のお茶碗にちょっと入れてテーブルに置いて、それからみんなが食べるという、そんな家でしたね。

 

━━修行時代はどんな時期でしたか?

ちょうどバブル時期でしたが、私は逆に礼儀作法や人としての在り方を勉強する場所ではあったと思いますし、それがあったから今の自分があると思っています。修行時代というのは、色々な店に丁稚がいて、その仲間というのは生涯の仲間だと思っています。それが一番の財産になったかなとは思っています。

もちろん商売のノウハウを教えてもらうのも当たり前のことですが、同時にこの業界は一つの店だけでやっていける業界ではないと思うので、仲間を得る場所だったと思っています。

 

━━仲間を得るというのは、他の業界だと少し感覚としてつかみにくいかもしれません。どんな感覚なのでしょうか?

この業界は、もちろんライバルでありながら、それ以上にお互いにお客であるということがあります。お茶会も一人ではできませんから、みんなで力を合わせて行います。

 

━━やはり同世代同士とか同期とか、横の繋がりが強いのですか?

そうですね。特に茶道具屋はそうだと思います。

お茶の一番面白いところは、価値観の共有だと思っています。生まれ育ちも性別も違って、国も違ったりするわけですけれど、そうした人たちが茶席の中で自分の表現をする。その表現に対して、いい表現だなと共感する。この共感というのが何よりも、寂しくない、孤独じゃないと感じさせてくれると言いますか……。

だからこそ戦国時代や明治以後の成功者がお茶を楽しんだのは、そのようなところがあったからだと思います。同じように我々茶道具屋というのは、仲間同士で一つの商品を競るわけですから、「あんたもあれが良いと思った?」といった仲間意識が生まれると思うんですよね。

それと同時にお客様とも共感ができるし、なおかつお金を頂戴して、私どもはご飯も食べさせていただけるという、非常にありがたい商売だなと思っています。

 

━━仕入れやご自身で購入される場合は何を一番大事にされていますか?

売れるから何でもいいのではないと思っています。自分が所有したいものを買って、それを共感していただける方に持っていただくっていうのが一番でしょうかね。

価値観は多少人によって違うでしょうけど、同じようなものが出たとしたら、ものの魅力が強い方を選ぶようにしています。例えばそれが仮に傷があろうと、それがいいと思えばそっちを買います。

 

━━修行を終えてお店を継がれたわけですが、いつから日本橋に出店されたのですか?

平成7年に岡山に帰りました。ずっと地元でやっておりましたが、ご縁をいただきまして昨年8月より日本橋に出店いたしました。

 

━━実際に店を出してみていかがですか?

実は、東京には馴染みがありませんでした。関西で修行したので、関西の仲間も多かったですから。東京の人ってちょっと怖いイメージがありました。冷たい感じで、言葉もちょっとニュアンスが違いますでしょ? そう思っていたのですが、本当に皆さんよくしてくださって。

 

━━お店は、この1階と、地下と2階があるのですね?

地下は、以前に入っていた画廊さんの雰囲気がちょっと残っています。できるだけそれを残して内装しました。

1階は、お茶が立てられるようにしています。なかなか靴を脱いで畳に上がって正座するわけにはいかないのですが、この作りだと大体の道具はここで普通通りに使えるんですよ。

 

━━1階のこの席は、いいアイディアですね! お茶もいただきやすいしお話もしやすい。お道具も拝見しやすいですね。

ちょうど、正座をすると膝が一つ出るじゃないですか。大体そのくらいの高さでと思って作っています。

 

━━日本橋に出店されて、何か印象的な出来事はありましたか?

10年ほど前に春風洞画廊さんの番頭さんが独立されたのですが、その時ご挨拶の手紙が届いたのです。その中の社長さんの文章がとても暖かくて、この方に会ってみたいと思っていました。いつか日本橋に行って春風洞画廊さんを覗いてみたいなと思っていたんです。その時のご挨拶状は大切に持っています。そして偶然にも日本橋に店を出すことになって、そんな方とご近所になれるというのは嬉しかった。日本橋に来て嬉しかった話です。

 

━━10年越しの素敵なお話しですね。

お茶道具屋さんにも色々なお店がありますけれども、三沢美術の特徴は何だと思いますか?

備前焼、古備前を中心に力を入れていまして、ここだけはどこにも負けずにやりたいと思っているところです。それと同時に、香が好きなものですから香道具を扱いたいと思っています。あとは修行先が煎茶の専門でしたから、煎茶道具も好きです。明治大正期に煎茶が大流行して、その時にすごく大切にされてきた文化を日本に残して守っていきたいなと思っているところです。茶道具を中心に備前、香道具、煎茶道具、が三沢美術の特徴だと思います。

 

━━東京アートアンティークではどのようなお品物を展示されますか?

炭道具を。マニアックかもしれませんが、炭道具というのは主導具に比べて、単価が安い割に結構いいものがある世界だと僕は思っていいます。

 

━━どんなお客様に今回来ていただきたいと思いますか?

古美術のコレクターの方ももちろん来ていただけたら嬉しいですけれども、やはりお茶をしたいという方。それもお茶事を考えていらっしゃるような方には、価値観の共有とアドバイスも含めてできるんじゃないかなと思っています。

 

━━お茶の世界というのは今どんな状況ですか?

すごく減っていますね。大寄せのようなお茶が衰退したと思います。

ですが、本来のお茶の姿というのは、4時間ほど時間をかけて懐石料理を含めたお茶事の姿であって、それは知人同士、より親密な価値観の共有ができる場だと思うので、そうした姿に戻ろうとしているのかなとは思うのですが。

とはいえ、お茶人口が減るということはそれだけ需要が減るので、物の値段も下がります。不思議なもので、安いといいものに見えなくなるというのが人間の心理としてあります。ですが、本当にいいものは今こそ買い時だと思うのです。だからこそ、今、本当にいいものをお客様には持っていただきたいなと思います。

 

━━三沢さんはお茶に関してはどんな姿勢で臨まれているのですか?

お茶に関しては、あまり形を崩すのは好きではありません。自由だとしても、ここは外しちゃいけない、というところがあると思うんです。これも価値観の共有だと思います。

例えお客様でも、そこを外しちゃったらお茶じゃないでしょ、とお伝えします。その辺は頑固だとよく言われますね。だから、「お宅にこれは必要ないです」と言って売らなかったりすると、僕がいない時に来て妻からこっそり買っていたり(笑)。

例えば掛け軸が長すぎて床の間に入らないと言われたりするのですが、「これは切ったらダメです」とよく言いますね。表具も時代や柄で理由があってその寸法になっていて、その姿、バランスに決まりがあるんですよね。買われた方のものだけど、でも僕らの仕事はそれを継承していく仕事だと思うのです。いくら買われた方が自由にしてもいいと言っても、そのルールのもとに、美意識のもとに選ばれるのはいいけど、そうじゃないやり方は、本来の価値を損なうことになりますから。そういうことはすごく大事にしているつもりです。

 

━━ご自分の生活スタイルなどに合わないことがあれば、相談すればよろしいですかね。

そうしていただきたい。掛け軸なら上を巻けばいいですから。ちょっとしたことで改善できることも多いものです。

ですから、この茶事をするとかこの釜をかけるから、と具体的に相談をしに、気軽に来ていただけたらと思います。

 

 

━━専門家に相談ができるというのはすごく心強いですね。

それが我々の仕事だと思っています。逆にその時に商売すればいいんだけど、何も売らずに持っているものを使った方がいいじゃないですか、なんてアドバイスすることもあります。「なんだ買おうと思ってたのに」みたいなこと言われることはよくありますけど(笑)。

必要のないもの買ってもらうよりは、本当に必要な時にお話させてもらう方がいいのかなと思っています。

  

━━少しでも手を入れたいことがあれば、専門家に相談していただきたいです。今日は三沢さんの価値観をたくさん伺うことができました。貴重なお話をありがとうございました。

こちらこそ、ありがとうございました。

  

 

三沢美術

https://www.tokyoartantiques.com/gallery/misawa-art/

公式ウェブサイト:https://misawabi.com/

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