2026.3.29
シンプルな美しさを求めてきた京橋のパテック フィリップ専門店「ONbeHALF」
ONbeHALF 永山 寿一様
━━改めまして、お店の名前と扱っていらっしゃるものを教えてください。
ONbeHALF(オンビハーフ)という店名で、パテック フィリップのヴィンテージウォッチだけを扱っています。「on behalf」という英語は、「誰々の代わりに」という意味で、当初はお客様の代わりに時計を探しますというコンセプトだったのですが、それをそのまま屋号にしました。
━━とても素敵な内装ですね。ロゴの家紋も目を惹きます。
母方の実家のお墓にあった家紋で、こちらに移るのをきっかけに使うことにしました。折入菱(おりいりびし)に杏葉(ぎょうよう)という、杏の葉っぱの紋です。
━━創業は何年ですか?
2006年です。法人化したのは2008年です。それまでは商社に勤めていました。時計の商売をするつもりは全くなかったのですが、時計は20歳ぐらいから好きで集めていました。
━━最初からパテック フィリップを?
ずっとそればかりというわけではないですが、ほぼそうです。基本的に最初からずっとです。
━━20歳の頃に興味を持たれたきっかけは?
ブルータスという雑誌に、古い時計の特集がありまして。当時大学生でしたが、見開きでたまたまいいなと思った時計があって、それが時計に興味を持ち始めたきっかけです。その後、両親から祖父のロレックスの時計があると聞いて、それが最初でした。
日本で高級時計が流行り始めたのは1985年くらいからだと思います。それまでは中古品という扱いであまり高く取引されていなかったのですが、海外のオークションなどで扱われるようになって、日本もちょうどバブルに入ってきて、そういう市場ができてきました。
パテックは当時やはり高くてなかなか手が届かなくて。でも完成度が飛び抜けて高いように思えたので、いつか欲しいなと思ったのがきっかけかもしれません。
━━初めてパテック フィリップを購入された時はおいくつぐらいでしたか?
1986年か7年、21か22歳の頃です。150万円の時計をローンで購入しました。
今から考えると、うちのお客様でも21、22歳の方はいらっしゃらないので、ちょっと普通ではなかったかもしれません。
━━それからサラリーマンをしながら少しずつ集められて、43歳で独立しようと思われたきっかけは?
2006年ぐらいでちょうどインターネットが少し周知され始めてきた頃でしたので、自分のコレクションを紹介するようなつもりでホームページを作りました。たまたま仕事でウェブデザイナーの方とお知り合いになれたので、その方にお願いして作っていただいて。
それでネット上で発表しつつ、最初は売り方も分からなかったのでヤフオクなどに出品したりとか。ヤフオクをご覧になった方が自分のホームページに来てくださればいいかなという感じで、少しずつ作っていきました。最初売るつもりで出品していたわけでもなかったですし、お店もありませんでした。
━━法人化されたのが2008年ですが、手応えを感じられるまでに2年ぐらいかかったということですね。
そうですね。しばらくは知り合いの会社の非常勤役員のようなこともしながらやっていました。

━━仕入れる時はご自身の好みを大切にされているのでしょうか?
自分の好きなものを買っています。たとえパテック フィリップであっても自分の好みでないものは扱いません。
━━その好みの分かれ目はどういったところに?
具体的に申し上げるのは難しいのですが、感覚的に自分の好きなものという感じです。
パテック フィリップのヴィンテージには、複雑時計と呼ばれるムーンフェイズなど、機能がたくさんついているものがありまして、そういったものは非常に高額です。そういった時計を探される方がどちらかというと多いのですが、私はどちらかというとシンプルな時計に目を向けています。もちろん高額なものは扱いにくいというのもあったかもしれません。
━━ホームページを拝見すると、わりとシンプルなものが多いですね。エレガントな印象を受けました。ヴィンテージウォッチに興味を持ちたいと思っているけれども、敷居が高いなと感じている方に、見方のポイントや楽しみ方でアドバイスはありますか?
おそらくパテック フィリップというのは、最初に買う時計ではないかもしれません。割と玄人の方が買われる時計ですので、まだヴィンテージウォッチを購入されたことがない方にお伝えするのは難しいかもしれません。
でももし購入をお考えの方がいらっしゃるとしたら、私の意見としてはなるべくケースが磨かれていないもの、なるべく手が入っていないような時計をお勧めします。クリーニングされていないとか、傷があっても補修がされていないとか。
━━クリーニングされていると価値が下がるのですか?
今はそういう傾向があります。昔はきれいな方がいいというコレクターさんがたくさんいらしたのですが、ここ10年ぐらいは基本的にあまり手が入っていない方が良いとされているようです。
━━パテック フィリップには偽物などもあるのですか?
偽物がないわけではないですが、ロレックスほどは多くありません。基本的にほとんどないと言っていいと思います。ただ、クリーニングがされていたり、ダイヤルが新しいものに交換されていたりということは非常に多いので、そこは注意が必要ですね。
━━自然のままの方が良いということですね。古美術でもシミなどが入っていてもそれを楽しまれるそうですが、そこは少し通じるものがあるかもしれませんね。
起業される時やお店を出される時に、一番苦労されたことや大変だったことはありますか?
今一番大変なのは仕入れることです。最初の頃はどちらかというと販売する方が難しかったのですが、今は仕入れる方が難しくなっています。
━━それはどういうことですか?
基本的に新たに作られるものではないので、どんどん数が少なくなっていきますし、SNSの普及によってコレクター同士で取引されるようになってきていますので、私のような業者に売却するよりは、コレクターの方に直接売った方がいいじゃないか、と。
━━オークションなどで仕入れられるのですか?
オークションではほとんど買えません。業者間の催事のようなものがあるのですが、そこでもほとんど買えないので、結局コネクションということになります。
━━それではどんどん品薄になっていく一方なのですね。
素人の方がコレクターから直接購入するというのは若干ハードルがありますが、結局コレクター間で取引できてしまう時代です。私の場合、売り上げの6割ぐらいが海外で、日本の方は4割ぐらいになります。品薄に加えて円安等も加わってどうしても高くなってきていますので、日本のマーケットは少し先細りかなと感じています。
━━お客様はどういった方が多いのですか?
私が扱っている時計はどちらかというと一見、すぐには分からないと申しますか、高額に見えない時計なので、派手好みではない、分かる方にしか分からないような物が好きな方に好まれるかもしれません。自己満足の世界かもしれませんね(笑)。
サラリーマンの方は少ないかもしれません。金額的にもそうですね。女性のコレクターの方というのはほとんどいらっしゃらないです。女性向けのレディース時計もありますけれど、どちらかというと男性の方が奥様に購入されるとか、そういうパターンが多いです。
━━お客様のコレクターの方は時計以外で何かコレクションされていたりすしますか?
陶器や骨董をお好きな方もいらっしゃいます。車やワインが趣味の方は、やはりホームページやSNSをご覧になって情報収集されています。
━━現在のこの場所へ移転されたのはいつ頃ですか?
以前は日銀の側に店を構えていたのですが、再開発で立ち退きになりまして。それで探しながら、京橋がいいかなと思っていました。骨董の店が多いので、このエリアでいいところがあればと思っていたら、たまたまここが空いていて。

━━コロナの頃はいかがでしたか?
海外への売り上げがほとんどなくなってしまったので、売り上げそのものも半分ぐらいになりました。ネットだけで商売できたので、なんとかなったという感じでした。
立ち退きの話が出た時に、マーケットが少しシュリンクするかなと思ったので、もうお店は不要かなと思ったこともあったのですが、辞めるのはいつでもできますし、ここの家賃も前の家賃と同じくらいでしたので、それならもう少し続けてみようと。
━━普段は予約制で、お越しになった方にだけお見せするという形なのですね。
普段は店に時計を並べていないのですが、東京アートアンティークの期間中は、どのように皆様をお迎えしようかと考えています。まだはっきりとは決めていませんが……。
東京アートアンティークは、陶磁器や中国の古美術の店が多いですよね。そういったものをご覧になりに来られる方が多いのかなと思っているので、腕時計でしかも2階ということで、お越しになる方も少ないかなと思っていますが、時計がお好きな方とお話しができたらいいな、と思っています。
━━どういった方に来ていただきたいとお考えですか?
時計をご存知の方が、ここにこういう店があるんだということを知っていただいて、お越しいただけるといいかもしれません。パテックについてお話をしに、というような感じで。
正直に申し上げると、私は愛想が良い方ではないので(笑)、あまり知識のない方がお越しになるとちょっと愛想悪く感じてしまうかもしれません。
━━愛想が悪いというよりシャイなのでは(笑)?
はい、どちらかというと素直に学びたい方の方がありがたいですね。そして、どちらかというと飾らない雰囲気がお好きな方という感じです。
━━店の中の家具も素敵ですが、川瀬巴水の木版画も飾っていらっしゃいますね。
浮世絵だと少し古すぎるように感じますが、川瀬巴水は大正昭和の作家でして、昔の日本の風景という雰囲気が好きです。これは特に鎌倉の風景で、自宅の近くなので、気に入っています。
━━今後、この事業をどのように展開していきたいとお考えですか?
先ほどお話ししたように、マーケット的に大きくするのは難しいと思うので、できる限り良い時計を見つけてご紹介させていただければと考えています。
━━情報発信はこまめにされていますね。
ブログは毎日書くようにしています。以前はインスタグラムも毎日投稿していましたが、最近は少しペースが落ちています。ブログの方はまめに書いていますのでご興味のある方はホームページからご覧いただければと思います。(https://onbehalf.jp/blog/)
また、一昨年書籍を出版しましたので、その第二弾のようなものを3、4年のうちには出したいと思っています。
━━どのような本ですか?
あるモデルだけを扱った本でして、96番というパテックフィリップの中でも歴史的な時計ばかりを集めたものです。

━━とても立派で重厚な本ですね!コレクターの方には貴重な一冊です。
次の出版も楽しみです。貴重なお話をありがとうございました。
ONbeHALF
https://www.tokyoartantiques.com/gallery/onbehalf/
