2026.5.18
京橋アート・アベニュー』第33回 長谷宝満堂・蛭田純さんが語る、明治超絶技巧の魅力
中央エフエムHello! Radio City「京橋アート・アベニュー」
第33回 2026年3月27日放送
出演者 長谷宝満堂 蛭田純さん
ナビゲーター:JUMIさん
*本記事は中央エフエムに許可をいただき、収録内容を書き起こして編集したものです。
焼け野原から始まった街の骨董屋:長谷宝満堂の歩み
JUMI
皆さん、中央区京橋には日本一のアート街があることをご存知ですか? 古から現代まで多彩なアートの魅力を発信する街、ここは150ものギャラリーが集う日本有数の美術街です。江戸時代からアートと縁が深く、美術館級のお宝からご家庭で楽しむアートまで何でも揃うアートの街。そんな京橋にお店を構える美術のプロの方たちを月替わりでお招きし、アートの街としての魅力を語っていただいています。それでは参りましょう、京橋アートアベニュー。
さあ、今日は銀座一丁目にお店を構えていらっしゃいます、長谷宝満堂から蛭田純さんにお越しいただきました。蛭田さん、よろしくお願いいたします。
蛭田
よろしくお願いします。
JUMI
もうすぐ東京アートアンティークが開催されるのですが、東京アートアンティークには何回目のご参加ですか?
蛭田
東京アートアンティークは、今年で16年と伺ったのですが、スタート時の16年前から参加しております。
JUMI
そうでしたか。蛭田さん、お若いですが、古美術を探して街にいらっしゃるベテランの方たち対して、様々な知識を蓄積なさって対応なさっているということでしょうか?
蛭田
古美術といってもジャンルが多岐に渡るので全て分かるわけではないのですが、私のお店で扱っている明治時代の工芸に関しては、ある程度数も扱っていますし、著名なコレクターや研究者とお話しする機会もありますので少しは知識があるのかなと思っています。
JUMI
長谷宝満堂さんの歴史を少し教えていただきたいのですが、いかがでしょうか。
蛭田
お店自体は、昭和28年に私の祖父が始めました。祖父から聞いた話によると、その頃はまだ戦争が終わったばかりで、銀座は焼け野原みたいな、本当に何もない状態の時から始めたそうなのです。今はちゃんとしたお店ですけれども、当時は屋台ではないですが、地面にゴザを敷いて物を並べるような形でやっていたと聞いています。
JUMI
そうでしたか。超絶技巧と言うと、日本橋の三井記念美術館さんなどで展覧会をおやりになったことがありますけれども、そういった作品をその当時から扱っていらっしゃったということですか。
蛭田
その当時の祖父のお店というのは、いわゆる街の骨董屋さんみたいな感じで何でも扱っていました。絵画だとかやきもの、あとその時すごく流行っていたのが切手やコイン。
JUMI
なるほど。
蛭田
日本刀もすごく流行っていたようで、何でも屋さんみたいな感じだったそうです。色々な方が色々なものを売りに来たり、買いに来たりしていました。現在はコレクターの方にすごく知識があって専門的で、色々なことをよく知っていらっしゃるので、どこのお店も専門店になって、絵画は絵画のお店、やきものは中国陶磁器だとか、鑑賞陶器というふうに分かれている中で、当店は明治の工芸に絞ってやらせていただいています。

JUMI
この京橋の街でまさにその明治期の超絶技巧というものを扱われるというのは、やはり非常にこの街に可能性も感じられたのでしょうし、それをずっと受け継いで守り続けていくって大変なことだと思うのですが、間もなくその3代目になられるのですね。純さんは京橋の街の魅力ってどんなところだと感じていらっしゃいますか。
蛭田
京橋の街は、まず国際的で、色々な国の方がいらっしゃるということですね。もともと私がやっている明治の工芸というのも、明治時代に欧米向けの輸出産業の一つだったのですね。ですので、外国の方に日本人ってこんなに手先が器用で、こんなに細かいものが作れるのだよということを、万国博覧会などを通してアピールする商品だったので、やっぱり今でもすごく外国のお客様が多くて。そういうところがすごく魅力なのかなというふうに思います。
JUMI
なるほど。海外から日本に観光でもそうですし、お仕事でもそうですが、いらっしゃる時には当然調べてくると思いますよね、今こういう時代ですから。その時に必ず長谷宝満堂さんを目指していらっしゃる方がいるということですね。
蛭田
嬉しいことに、そういう方もいらっしゃいますね。
並河靖之の七宝焼:命がけで生まれた色彩の美
JUMI
さて、今日はその超絶技巧ということで、逸品中の逸品だと思うのですが、お持ちいただきました。どんな作品なのか、ご紹介いただいてもよろしいでしょうか。
蛭田
はい。並河靖之(なみかわ やすゆき)という作家が作りました、明治時代の七宝焼きになります。
JUMI
並河靖之さんという方は、七宝の世界では有名な方なのでしょうか。
蛭田
はい。明治時代には今の人間国宝制度にあたる帝室技芸員制度というのがありまして、天皇の身の回りのものを作る特別な職人が何十人かいました。七宝焼きの中では、この並河靖之という人と濤川惣助(なみかわ そうすけ)という方が帝室技芸員2人だけなので、七宝焼きの作家の中では本当にトップの作家になります。
JUMI
さて、持ちいただいた作品なのですが、高さが10センチないくらいですよね。そして横幅もやっぱりそのくらいの、非常に丸っこいという表現が合っているかどうかなのですが、素晴らしい細工と色味のものですね。これについてぜひ蛭田さんからご紹介いただいてもよろしいですか。
蛭田
ありがとうございます。この作品は、蓋がついている香炉のような形になっていまして、当時欧米で人気のあった飾器(かざりき)という名称です。楕円形の窓枠が3つあって、その中に様々な種類の花ですとか、そこに留まる蝶だとか、鳥の図柄が描かれています。窓枠の外の部分には菊や唐草、花菱文のような模様が描いてあって、とにかく隙間なく植線(しょくせん)がされている作品になります。
JUMI
そうですね。これは七宝という技法ですね。絵付けをしたの? と思う方もいらっしゃると思うのですが、そうではないのですよね。
蛭田
作り方としては、まず銅で花瓶だとかお皿だとか、こういう飾器の形を作りまして、花や鳥などの模様を下書きし、それに沿って銀や真鍮を薄く切った線を貼り付けていきます。その後、素地とその線の間にできた溝の部分にガラス質の釉薬を入れて、窯で焼くのですね。そうするとガラス質の釉薬が溶けて、銅の素地にそれぞれの色がつく。そのように、釉薬を挿して焼いて、挿して焼いてというのを7、8回繰り返して、最後研磨をして仕上げます。

JUMI
想像を超える工程と時間をかけているということなのですが、本当に手のひらに収まる宇宙のようですね。実際にどれだけの時間をかけていらっしゃるのでしょうか。
蛭田
作り方としては分業制というのが、当時の特徴になっていまして、素地を作る方は素地を作るだけ、植線をする人は植線だけ、下絵を描く人は下絵だけ、釉薬を挿す人は挿すだけという、分業で作られているので、何点も同時に作れるのですが、それでも1つの作品が出来上がるまでには数ヶ月のものから、万国博覧会に出したり皇室の注文で作ったりするような作品に関しては、何年もかけて製作します。
JUMI
すごいですね。今日お持ちいただいたのも、本当に貴重な作品だと思うのですが、こういったものを、実際に蛭田さんがご覧になって、お勉強なさりながら、私たちに伝えてくださるわけですね。七宝の魅力ってどんなところなのでしょう。
蛭田
やはりその小さいところに、すごく細かい模様が詰まっている、現在では再現できない超絶技巧の技術と、色ですよね。この色というのは、絵の具では出せないような透明感のある独特の色なのですが、こうした色が当時出せたのは、今では禁止されているような、ヒ素だとか、鉛だとか、そういう毒物を使って出していたそうで、当時の職人さんは、それが毒だということは知らずに使っていたみたいなのですが、今は禁止されて作れない色なので、命がけで作ったではないですけれども、色が魅力なのかなというふうに思います。
JUMI
そうですね。もう二度と作れない色になりますよね。
東京アートアンティークで出会う明治の超絶技巧
JUMI
今ご紹介をいただいて、非常に貴重なものだということを教えていただいたわけですが、実はこの4月23日から25日に、京橋・銀座エリアで開催されます、東京アートアンティークにもご出展なさるのですね。この時には、どんなものを出品なさるのかについても含めてお店のご紹介と、それからリスナーの皆さんへのメッセージもお願いしたいと思います。
蛭田
はい。私のお店は、明治期の工芸を扱っておりますので、今ご紹介した七宝と同様に、同じ時期に同じように、海外の方から超絶技巧ということで人気のあった、蒔絵ですとか、金属工芸、金工ですね、あと刺繍絵画だとか、薩摩焼など、そうしたものを展示しております。
JUMI
期間中、ぜひ皆さんにはお越しいただきたいと思います。東京アートアンティークのパンフレットでは、10ページに記載されております。長谷宝満堂さん、ガラス張りで外からも見えますが、ぜひ店内に入って、見事な作品をご覧いただきたいですね。
蛭田
はい。入りやすい雰囲気だと思うので、お待ちしております。
JUMI
今日は、中央区銀座1-9-1、蛭田純さんがお店を守っていらっしゃいます、長谷宝満堂さんについてご紹介いただきました。蛭田さん、どうもありがとうございました。
蛭田
どうもありがとうございました。
長谷宝満堂:銀座1-9-1
https://www.tokyoartantiques.com/gallery/houmando-ltd/
