2025.7.22

『京橋アート・アベニュー』第24回 京橋で「独酌」の愉しみを知る。古美術 侘助 橋本さんが語る、酒器と日本酒の奥深い世界

中央エフエムHello! Radio City「京橋アート・アベニュー」
第24回 2025年6月27日放送
出演者:侘助 橋本眞次 さん
ナビゲーター:JUMIさん
*本記事は中央エフエムさんに許可をいただき、収録内容を書き起こして編集したものです。

  

 

京橋で古美術と出会う:侘助 橋本さんが語る「用の美」
 

JUMI
ハローラジオシティ京橋アートアベニュー。京橋には日本一のアート街があることをご存知ですか? 古から現代まで多彩なアートの魅力を発信する街、ここは150ものギャラリーが集う日本有数の美術街です。江戸時代からアートとゆかりが深く美術館級のお宝からご家庭で楽しむアートまで何でも揃うアートの街。そんな京橋にお店を構える美術のプロたちを月替わりでお招きしてアートの街としての魅力も伺っていきたいと思っています。

それでは参りましょう、京橋アートアベニュー。今日スタジオにお招きしましたのは古美術侘助のご店主、橋本さんです。橋本さんよろしくお願いいたします。

 

橋本
こちらこそ、よろしくお願いいたします。

 

JUMI
東京アートアンティークにもお越しいただきありがとうございました。先日行われた東京アートアンティークでの、お客様の反応はいかがでしたか?

 

橋本
古美術に馴染みのない方も気軽に足を運んでくださいました。特に、私の店は酒器に特化して展示していましたので、桃山時代から江戸初期の品々を通して、古美術の世界に触れていただけたかと思います。

 

 

酒器を愛でながら:江戸の粋な「独酌」文化を愉しむ
 

JUMI
今日のメッセージテーマは「週末を楽しく過ごすためのキーワード」ですが、橋本さんの酒器をご覧になった方が、この週末に美味しいお酒を飲みたいと思ったことでしょうね。橋本さんご自身のキーワードは何ですか?

 

橋本
「一人飲み」、すなわち「独酌(どくしゃく)」ですね。

 

JUMI
独酌、いい言葉ですね。

 

橋本
一人飲みという言葉自体は、実は江戸時代からあるんです。江戸時代は長屋に住む人が多く、地方から出稼ぎに来た独身者も多かった。そのため、毎晩のように一人飲みをする人が多く、それに合わせた食のシステムも出来上がっていたんです。

 

JUMI
食のシステム、ですか?

 

橋本
ええ。長屋には、刺身など魚を捌いて売る人や、茹でた枝豆に塩を振って売り歩く人がいました。屋台や天秤棒を担いで売り歩く人もいて、手軽に自宅で一人飲みを楽しめる環境が整っていたんですね。

 

JUMI
いいですね。これからの季節、窓や扉を開け放って楽しめるお酒は最高ですね。酒器を扱っていらっしゃる橋本さんのお店には、様々なお客様がいらっしゃると思いますが、お客様は酒器の時代背景などをご存知の方が多いのでしょうか?

 

橋本
意外と少ないですね。桃山時代や江戸時代のものが本物かどうか、つまり真贋を気にされる方が多いです。

 

 

李朝の白磁で涼やかに、唐津の徳利で粋に:酒器を味わう
 

JUMI
なるほど。今日ご紹介いただく酒器について教えていただけますでしょうか。

 

橋本
色々悩みましたが、今日は李朝初期の白磁の猪口をお持ちしました。

 

JUMI
ありがとうございます。

 

橋本
サイズは一般的なものより一回り大きく、直径8~9cmほどでしょうか。白磁といっても、中国の南宋時代の名品「影青(いんちん)」のように、少し青みがかった色合いをしています。氷を浮かべて焼酎やお酒を注ぐと、涼やかな気分で楽しめると思います。

 

JUMI
薄青、薄緑のような色合いで、涼しげに見えますね。氷を入れて、お酒を注ぐと、涼しげな音も楽しめそうですね。

 

橋本
そうですね。江戸時代は冷蔵庫がないので、基本的には燗酒でした。特に熱々の「極上燗」などが好まれていました。

 

JUMI
燗酒にも様々な種類があったんですね。

 

橋本
ええ。ですから、常温や冷酒で飲むというよりは、燗酒が一般的でした。この李朝初期の白磁も、氷を浮かべなくても、そのまま日本酒や焼酎を入れて楽しめます。

 

 

 

JUMI
これからの暑い季節にぴったりですね。橋本さんは、やはり燗酒にされますか?

 

橋本
ええ、私は燗酒が好きですね。香りと味わいが引き立つんです。冷蔵庫で冷やしすぎると、味も香りも閉じ込められてしまい、美味しくありません。

 

JUMI
なるほど。

 

橋本
日本酒は、やはり燗酒が一番美味しいと思います。

 

JUMI
その酒器の肌触りはいかがですか?

 

橋本
李朝は、1400年頃までの時代を指しますが、この李朝の白磁は、現代の焼き物と違って、艶がありすぎず、深みがあります。少しざらついたような、しっとりとした潤いのある肌触りが特徴です。口当たりも違いますね。

 

JUMI
そうなのですね。橋本さんは唐津もお好きとのことですが、今回お持ちいただいた唐津の徳利も独特の色合いですね。

 

橋本
ええ、伝世品で長年使い込まれたものなので、お酒が染み込んで、少し赤みを帯びた温かい雰囲気になっています。一般的な絵唐津の徳利は、花などの絵が描かれていることが多いのですが、この徳利は一筆でスッと葦の葉のようなものを描いた、潔い絵付けが魅力です。

 

JUMI
おっしゃる通り、潔いという言葉がぴったりですね。

 

 

杜氏泣かせの酒:古美術店主が造る、究極の日本酒
 

JUMI
橋本さんは、聞くところによりますと、ご自身でもお酒を造られているそうですね。

 

橋本
ええ、趣味の範囲ですが。古代米を使った日本酒を造ってもらっています。精米歩合95%というほとんど磨かない米を使い、木桶で生酛造りをするという、杜氏泣かせの酒です。販売はしていませんが、機会があればぜひ飲んでいただきたいですね。

 

JUMI
侘助に伺えば、そのお酒をいただけるチャンスがあるということですね?

 

橋本
店には置いてありますので、お声がけください。

 

JUMI
実際に飲まれた方はどのような感想をお持ちですか?

 

橋本
「他の酒が飲めなくなる」とおっしゃる方が多いですね。

 

JUMI
それはすごいですね。どのようなお酒なのでしょうか?

 

橋本
言葉で表現するのは難しいのですが、五味、七味を備えた酒と言えるでしょうか。口に含んだ時に辛さ、渋さ、酸っぱさを感じ、喉を通る時には旨味が広がる、味に深みのある酒だと思います。

 

JUMI
なるほど。数多くの日本酒を飲んでいらっしゃる橋本さんが造られた日本酒は、今回ご紹介いただいた李朝の白磁に合うのでしょうか?

 

橋本
ええ。自分の酒でしか飲まない、と言っても過言ではありません。様々な蔵の酒を試しましたが、満足できず、自分の理想の酒を造ってもらうことにしたんです。

 

JUMI
究極のこだわりですね。

 

橋本
それと、もう一つ付け加えたいのは、本や人の言葉で自分の価値判断を決めないでほしいということです。自分の目で見て、触れて、感じて、判断してほしい。一回り大きくても使いやすいと感じるものや、珍しいものなど、自分の感性を信じて選んでほしいと思います。

 

JUMI
そのためには、足繁く古美術店に通い、自分の感性に合うものを見つけることが大切ですね。

 

橋本
その通りです。

 

JUMI
ぜひ皆さん、京橋の街に足繁く通って、素敵な出会いを楽しんでいただきたいと思います。最後に、リスナーの皆さんにメッセージをお願いします。

 

 

京橋で「用の美」に出会う:古美術 侘助で自分だけの一品を
 

橋本
メッセージですか。気軽に店に足を運んでいただき、色々な話をしながら、お気に入りの一品を見つけていただきたいですね。値段は様々ですが、ご自身の身の丈に合ったものを選んでいただければ良いと思います。使ってこそ酒器ですから。

 

JUMI
自分で選んだものを、心置きなく使う。それは本当に幸せなことですよね。ありがとうございました。というわけで今日は京橋にございます古美術 侘助からご店主の橋本さんにお越しいただきました。橋本さん、またのご登場をお待ちしております。

 

橋本
ありがとうございました。 

 

 

中央エフエム Hello! Radio City ウェブサイトでもご覧いただけます!

https://fm840.jp/program/hello/2025/06/27/38208

 

侘助:https://www.tokyoartantiques.com/gallery/antique-shop-wabisuke/

   

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